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目を瞬かせた。
「新と真がしていること⋯⋯」
「ああ、なるほど。お母さまとお父さまが着ているものを交換しろってことか」
「なるほど⋯⋯えっ!」
思わず素っ頓狂な声を上げた。
この二人は無邪気な顔をしてなんてことを言うのか。
「えー⋯⋯と、新、真。さすがにお母さまとお父さまの着物を交換するのはちょっと⋯⋯」
「何がいけないっていうんだい、葵? 僕は別に交換しても構わないけど」
「え、ぇー⋯⋯碧人さんがのるとは思わなかった」
「⋯⋯葵は何かやましいことでもあるの⋯⋯?」
「⋯⋯っ」
不意に耳元で囁いてきたことに驚いて肩が上がった。
「べ、別にやましいことなんて⋯⋯っ! ただ、新と真の時とはわけが違うっていうか⋯⋯」
「言いたいことは分かるけど、こう決めた二人をどう説得しようか。けど、今はそのことをゆっくり考えている暇もないかな」
そういう夫に二人を見てみると、大きな瞳をキラキラとさせて、どこかわくわくさせているようだった。
二人分並んだその眼差しに期待を裏切るわけにはいかない。
「⋯⋯分かりました。やりましょう」
「じゃあ、今日は葵お母さまに着付けてもらおうかな」
碧人の着替えを取りに行こうとした時、そんな声が聞こえ、思わず振り返った。
すでに葵人の着替えを手に持っていた夫が、人当たりの良さそうな笑みをして待っていた。
「いつも僕の着付けをしているよね」
「たまには葵に着付け欲しいなって」
「⋯⋯なにそれ」
まるで甘えた子ども──そう、新と真のようだと思ったが、子どもの可愛さとは全く違うため、比べては逆に失礼だ。
こんなことでうだうだ言っていても仕方ない。「分かりました」とため息混じりに言って、碧人から本来ならば自分が着るものをもらい、着付ける。
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