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「碧人さん、着物汚れちゃったし、すぐに着替えた方が⋯⋯」
「朝食の後に着替えるからいいよ。今はそれよりも葵が手一杯なのだから手伝わないと。⋯⋯ふふ、葵が僕のことを気遣ってくれて嬉しい」
「それは、その⋯⋯僕にも至らないところがあったら、やっぱり申し訳なく思って⋯⋯」
「じゃあ、お詫びに葵が僕のことを脱がせてくれる?」
「⋯⋯っ」
瞬時にかっと顔が熱くなる。
さっきは碧人はさっさと脱いで、すぐに葵人のことを脱がせにきたが、こうも改めて言われると⋯⋯。
「なあに、葵、顔を赤くして。何を想像しているの⋯⋯?」
「なっ、何もない! 何も想像してない!」
「おかーさま、まっかー!」
「かわいいー!」
「もうっ、いいから、みんなお腹が空いているでしょっ、ご飯を食べましょうね!」
慌てて誤魔化し、「ほら、真、あーん」と手に取ったスプーンで掬ったものを運ぶと、「あーん!」と元気よく開けてくれた口の中に入れた。
「美味しい?」
「おいしー!」
「ねーねーあーたにも!」
「新はお父さまが食べさせてあげる。ほら」
「あーんっ」
今度は素直に聞き入れた新に「美味しい?」と頭を撫でながら訊くと、うんっと大きく頷いていた。
二人ともちゃんと食べてえらい。
楽しそうに食べる二人の姿に思わず笑みが零れる。
子ども達を最優先に食べさせることは大変だけど、この甘えさせることはすぐになくなってしまうのかと思うと、少し寂しく感じる。
この日常を忘れたくないなと主に真のことを食べさせてあげながら強く思った。
ぐぅぅ⋯⋯と、音がした。
遮るように鳴ったそれは自分のお腹の音だと気づいた時、さすがにお腹が空いたのかと自覚させられる。
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