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そんな悦びも束の間、碧人から離れていった。 いとも簡単に離れてしまったことに、思わず葵人は「⋯⋯ぁ」と声を漏らしていた。 「⋯⋯葵の身長を書いている時、葵が僕のことを見上げているとは思わなくて、あまりにも嬉しくて、とても可愛らしくて、思わずしてしまったよ。葵もまた達したみたいだし、嬉しそうだね?」 「⋯⋯は⋯⋯、うれし、⋯⋯なんて⋯⋯」 「僕が離れた時、まだして欲しそうな寂しい顔をしていたのは無意識? さっきは素直に頷いてくれたのに、なんでまた言い張るのかな⋯⋯」 「⋯⋯それは⋯⋯」 「もっと僕にお仕置きして欲しいっていうの?」 お仕置きして欲しい。 喉まで出かかった言葉を無理やり飲み込んだ。 自分は悪い子だと植えつけられ、この生涯かけても終わらない罰を与えられていくうちに痛みが快感に変わってしまったのだから、物乞いのように欲しくてたまらなくなる。 言い張っても、結局はお仕置きが増えるだけで、どっちに転がっても自分の立場では無意味なのに、しかし、言い換えてみれば欲しい罰が増えるのだから、碧人に少々反抗的になってもいい。 そんなことを考えてしまうのだから、無意識のうちに、碧人の言葉でいうと言い張ってしまうのだ。 「ね、葵。僕からの罰が欲しい⋯⋯?」 まるで悪戯な笑みで、葵人の目には与えてくれるありがたい存在のように見え、それにすがりついた。 「⋯⋯欲しい。⋯⋯碧人さんの罰、欲しいです」 碧人の袖をいつの間にか掴んでいたらしい、さらにぎゅっと握った。 すがりついてしまった。

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