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夢見る俺たちのオメガバース (9)

 ガタガタと震えていた身体を、強く抱きすくめられる。  咄嗟に抗おうとしたら、巻きついた腕の力がもっと強くなった。  首筋に落ちる吐息が、暖かくて優しい。  まさか…… 「せん、ぱい……?」 「遅くなってごめん……」 「佐藤先輩……っ」  俺は、目の前の温もりに縋りついた。  この背中、知ってる。   夢じゃない。  本物の佐藤先輩だ。  先輩が来てくれた……!   「うっ……うっ……」 「よく頑張ったね」  佐藤先輩が、俺を覗き込みながら眉毛できれいな八の字を描いた。  みっともなく泣きじゃくっているのは俺の方なのに、なぜか先輩の方が今にも泣き出しそうな顔をしている。 「突然で怖かっただろ?」  俺は首を横に振った。  先輩が、ちょっと驚いたような顔になる。  強がりなんかじゃない。  本当に、もう怖くないんだ。  だって、もう大丈夫だから。  佐藤先輩が、来てくれたから。  俺は、先輩の腕の中から抜け出すと、四つん這いになった。  そして、ぬるぬる滑る指先に一生懸命力を込めて、目いっぱいお尻を開く。 「理人……?」 「先輩を……ちょうだい」  お腹の奥が、ずっときゅんきゅん痙攣してる。  欲しがってるんだ。  佐藤先輩を。  心だけじゃない。  俺の全部が、先輩を求めてる。 「すごく濡れてる」 「あっ……」 「綺麗だ……」  佐藤先輩の長い指が、お尻の割れ目をゆっくりとたどった。  たったそれだけで、背中がゾクゾクして、高鳴る期待で心臓が破れてしまいそうだ。  溢れた欲を塗り込むように、先輩の指が円を描くようにそこをなぞっていく。  早く。  早く。  せっかちな本能が、勝手に俺の腰を揺らしてくる。  どんどん溢れてくる唾液が、口の端からこぼれていく。 「は、ぁん……っ」  つぷり。  我慢を知らないお尻を慰めるように、先輩の指が入ってきた。  でも熟れきった蕾が指一本で満足するはずもなく、俺は自分から繋がりを深くしようと動いてみる。  でも、だめだ。  全然足りない。 「お願い、先輩。早くっ……早くちょうだーーっひ!?」  挿し込まれていた指が抜かれた思ったら、硬い何かがお尻の中をにゅるりと逆流した。  呼吸が止まり、全身の筋肉が硬直する。 「な、なに!? 今、なに入れたの……!?」 「座薬。お薬だよ」 「お、くすり……?」 「緊急時用の発情抑制剤。外で誰かに万が一があったらと思って持ち歩いてたやつだけど……あってよかった」  先輩の言葉が、グサリと俺の胸に刺さった。  よかった?  どうして……? 「やだぁっ……」 「理人、大丈夫だから。すぐに薬が効いて……」 「なんで……?」 「え?」 「どうして、お薬なんてしたの……?」 「理人……?」 「俺は、こんなにも先輩がほしいのに……っ」    先輩の言うとおり、〝お薬〟はすぐに効いてきた。  頭では「よかった」ことだとわかっているけど、心がついていかない。  鼓動が落ち着いていくのが嫌だ。  お尻が乾いていくのが嫌だ。  抑制なんてされたくない。  このまま、先輩のものにしてほしかった。  先輩だけのΩに、してほしかったのに。 「うっ……うっ……」  また、涙が溢れてくる。  先輩は俺を抱き上げ膝の上に乗せると、頬を伝う雫を親指で拭った。  その手をそのまま俺の額に移動させしばらく考え込んだあと、もう一方の手をそっと俺のお尻に這わせる。  そこはまだ発情の名残で粘っていて、でも、新しい滴はもう出てこない。  先輩はほうっと長い息を吐いた後、俺の頭の上に顎を乗せた。 「俺がαなことは、理人も知ってるだろ?」  もちろん、知ってる。  だから先輩に告白された時、本当に俺でいいのか悩んだ。  αなら、先輩の相手はΩであるべきだと思った。  でもそんな俺の言葉を笑って一蹴したのは、他ならぬ佐藤先輩自身だ。  αとかβとかΩなんて関係ない、俺は理人が好きなんだからーーって。  俺は、先輩の言葉を信じた。  俺だって、先輩がαだから好きなわけじゃない。  先輩が先輩だから好きなんだ。  でも、心のどこかで、ずっと思ってた。  もしも俺がΩだったならーーって。  だから、自分がΩだってわかってショックだったけど、嬉しくもあった。  αとΩなら、番になれる。  番になったら、俺は先輩とずっと一緒にいられるんだ。 「先輩……っ」 「だめだよ、理人」  そこに伸ばそうとした手は、すぐに掴み取られた。 「発情したΩとαがセックスしたら、赤ちゃんができるかも知れない。俺も理人とならいずれとは思ってるよ。でも、それは今じゃない」  厳しい言葉が、優しい声にのって俺に届いてくる。 「俺たち番になってもないし、何よりまだ高校生なんだから」 「でもっ……」  先輩は、俺より年上で、俺なんかより、ずっと大人でーー 「子供だよ」 「……」 「理人、俺たちはまだ子どもだ」  ようやく、普通の呼吸ができるようになってきた。  こんがらがっていた頭がスッキリしてきて、先輩の言葉を理解しようとする意思が生まれ、隅っこに押しやられていた理性がじわりじわりとその存在感を復活してくる。  でも、わずかに残っていたΩの本能はなかなかしぶとくて、最後の足掻きを俺に命令してきた。 「どうしても、だめ……?」  震えた声と、潤んだ瞳。  ついでに濡れた吐息も上乗せして挑んでみるけど、 「だーめ」  先輩の大きな手が、俺の乱れた髪をさらに掻き乱した。 「理人が好きだよ。だから、大事にしたいんだ」 「佐藤先輩……」 「大事にさせてよ。ね?」

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