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夢見る俺たちのオメガバース (10)
不意に腕の中の重みがずしりと増し、荒かった呼吸がすうすうと穏やかなものに変わった。
ベッドに横たえた理人の頬が、うっすらと光っている。
理人の泣き顔はこれまで何度も見てきたけれど、今日ほど胸を痛めたことはない。
「本当に……よく頑張ったね」
まさか、こんなことになっていたなんて。
学校が終わってから行くーーそう言ってはみたものの、理人のことが心配すぎて授業なんて全然手につかなくて、こうなったらいっそと、仮病を使って早退した。
そうして理人の家の前までやって来たら、ありえない香りがした。
恐る恐る足を踏み入れて、でも、この目で見るまでは信じられなかった。
まさか理人がΩで、発情していて、しかもそのかわいいお尻には俺じゃない男の指がーー
「こんちくしょう……っ」
間に合ったからよかったものの、あのクソガキ……木瀬航生め。
今回ばかりはつい手が出てしまったけれど、しょうがない。
これに懲りて、隙あらば理人に手を出そとするのをやめてくれれば……って、そんなタマじゃないか、あいつは。
「ふう……」
それにしても、危なかった。
甘いような、酸っぱいような、それでいて、熟した果実のような。
理人のフェロモンは、鼻腔をくすぐる間もなく俺の脳髄を侵してきた。
すぐに、『欲しい』と思った。
手に入れたいと思った。
組み敷いて、突っ込んで、孕ませたい。
俺の……俺だけのΩにしてしまいたいーーと。
あの一年坊主はクソガキには違いないけれど、今になって思えば、抑制剤のないあの状況でよく指だけで我慢できたものだと感心してしまう。
彼は彼なりに、理人のことを大事に思っているということなんだろう。
理人がΩだったことは、正直嬉しい。
好きという気持ちにバース性なんて関係ないという思いも、もちろん本当だ。
でも、理人がΩなら、俺たちは番になれる。
番になれば、ずっと一緒にいられる。
だからこれは、嬉しすぎる誤算。
でも、
ーー先輩を……ちょうだい。
発情した理人があんなにもエロ……かわいいのは、想定外の大誤算。
「こん……ちくしょう」
あっという間に勃ち上がった股間に向かって、俺は精一杯の悪態を吐いた。
理人のフェロモンに当てられた俺の脳内は、ひたすらに理性と本能の一騎討ちだった。
限りなく本能の勝利に近かった戦況を覆した理性を賞賛していたところだったのに、結局これだ。
「はっ……あ……ッ」
鍵をかけてトイレにこもり、すでに限界まで膨らんだ欲望をずるりと扱き上げる。
「んっ……ぅ……ん」
丸いお尻。
小さなお尻。
濡れたお尻。
揺れるお尻。
ぽっかりと開いた孔。
脳裏に浮かぶのは、理人の痴態ばかりだ。
かわいかった。
エロかった。
ーーお願い、先輩。早くちょうだい。
俺のものに、したかった。
「くーーッ!」
なんてことだ。
たった5扱きで達してしまった。
あまりにあっけなく弾けた欲をトイレットペーパーで受け止め、俺は天井を見上げた。
賢者タイムへようこそ!
白い天井に微かにあるグレーのシミが、そう言っているように見える。
この際、人様の家のトイレで抜いてしまった事実は置いておくとして。
大事なのは、これからどうするべきかだ。
俺たちが、どうあるべきか。
Ωとして覚醒した理人には、これから定期的に発情期がやってくる。
もちろん、抑制剤である程度抑えることはできるけれど、発情したΩの心を何よりも満たすことができるのは、αとのセックスだ。
とはいえ、そういう関係に進んでいくのならば、それはもう俺たちだけの問題ではなくなってくる。
「まずは、挨拶……かな」
理人のご両親とはもう何度か顔を合わせているし、付き合っていることも知った上で俺たちを見守っていてくれている。
ただ、それがαとΩとなれば、話は別だ。
番うことーーつまり、〝結婚〟を前提として付き合っていくことを、認めてもらわなければならない。
ーー息子さんを僕にください。
声を震わせずに、言えるだろうか。
*
「プッ……」
部屋に戻ると、理人は脱ぎ散らかしたままだった俺の学ランを握りしめて眠っていた。
俺のにおいを辿って見つけたんだろうか。
もしかしたら、巣作りの練習をしているつもりなのかもしれない。
「ああもう、かわいいなあ。こんちくしょう」
そして、確信する。
大丈夫だ。
俺たちの未来は、これからも続いていくーーと。
「愛してるよ、俺の理人」
俺は愛しい眠り姫の乾いた頬に、そっと口づけを落とした。
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