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第3話 再会
思えば聖の屈辱は、小学生低学年の頃に、バレエの発表会でお姫様役をやった時から始まったような気がする。
仕方なかったと言えばそうなのだろう。その頃、バレエ教室にはモンスターママばかりで、どの女の子をお姫様役にしても角が立つ状態だった。
困りきった先生が、断トツで踊りが上手くて、断トツで可愛らしい聖をお姫様役に抜擢し、モンスターママ連中の口を封じようとしたのも、仕方のない事だったのだ。
それ以後、発表会におけるお姫様役は聖の定位置となり、中学進学を機にバレエをやめるまで続く。
もともと、バレエが特別好きという訳ではなかった。むしろ、お姫様役を理由にイジメられもした。
母親とバレエ教室の先生が友人だったので、お付き合いで行かされていただけなのだ。
なので、中学に入った聖は、男らしさにあこがれて空手道場に通うようになる。
持ち前の身体能力とズバ抜けた柔軟性で、入会当初から型競技の選手として期待された。
だが、型の練習だからか、師範がベタベタと身体を触りまくるのが気持ち悪くて仕方ない。
結局一年余りで空手もやめ、放課後は隣の学区にある駄菓子屋まで自転車で行き、店の前に置いてある古いアーケードゲームに連日興じるようになる。
お気に入りは、ロケットで迫りくる円盤を撃ち落とすゲームだ。
勝ち進むにつれ円盤の動きも攻撃も複雑になるのだが、聖は連日の修練の結果、百円で長時間遊べるまでになった。
その日も、そうだった。
いつもの駄菓子屋で、もう少しで自己ベストを更新するというその時、不意に後から声がかかった。
「お客さん。たった百円でそんなに長く遊ばれちゃあ、ウチの商売あがったりなんですけど」
振り返ると、ジャージ姿の秀平がいた。
身体こそ大きくなったが、顔は昔の面影のままだ。でっかいスポーツバックを背負っている。
「……秀平?」
ところが、秀平は言った。
「えっ……誰だっけ?」
その瞬間、ロケットは円盤の攻撃を受けて爆発する。
「だあぁ! 死んだぁ! 秀平のせいだぞ!」
秀平は腹を抱えて笑った。
「ハッハッハッ、よくそんな古いゲームに夢中になれるね」
「ほっとけ、人の勝手だろ。それはいいから、オレのこと、覚えてないのかよ」
「スマン、ゲームがあまり上手いんで、つい声をかけちゃったけど……」
「ひでぇ奴だな。小学生の時、学校は違ったけど、何度も一緒に遊んだろ」
秀平は、聖の顔をまじまじと見る。
「いや、君みたいな美少年に知り合いは……いや、口の悪い美少女なら一人いたけど」
「オレは、自分が女だなんて、一言も言ってねぇよ」
「もしかして聖ちゃん? そういうこと? キミを女の子だと思って、一生懸命気を引こうとしていたのに」
「バカだなぁ、オマエ」
「なんてこった、ボクの初恋が……あの時のお菓子、返してほしいよ」
「今日のクソでいいならくれてやるよ」
二人は大きな声で笑った。
止まっていた二人の時間が、再び動き出した瞬間だった。
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