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第7話 裏心

 T高にも文化祭はあったが、学園マンガでよくある様な、全校中が盛り上がるという程のものでもなかった。  全力で頑張る者が三分の一、何となく乗っかる者が三分の一、殆ど無関心の者が三分の一といった所か。  文化部に所属していれば力も入るだろうが、そうでなければ面倒な行事の一つといえた。  少なくとも、聖と秀平にとってもそうなる筈だった。  だが、T高は共学校である。男子校や女子校に進学したものにとって、中学時代のツテを頼って共学校の文化祭を訪れるのは、貴重な出会いのチャンスに他ならない。  そして例に漏れず、秀平にも過剰な期待がかけられていた。  困った秀平は、クラス委員長の八木女史に相談する。  八木女史は、どこのクラスにも一人は存在するお節介……いや、面倒見の良い女子だ。  単なるお人好しかというとそうでもなく、イザという時にはチャッカリ見返りを求めてくる。  変わり者だが、ハッキリとものを言う女史を、秀平は嫌いではなかった。  その八木女史が言うには、女史の友人も二人、文化祭にやって来るという。女子校に進んだ友人だ。  取り敢えず二、三時間、行動を共にする事になった。 「でも、私の友達が二人で、秀平くんの友達が三人では、数が合わないわ」 「別にいいよ。何なら女史と会えるだけでも、アイツらありがたがるから」 「私なんかが男子三人からありがたがられても、居心地悪いだけよ。それより、横澤くんに協力してもらいましょう」 「聖くんに? 男が一人増えるだけじゃない?」 「ジョーカーになってもらうのよ」 「ジョーカー? 何だ、それ?」 「聖くん、普通の女子より、ずーっと可愛いから。秀平くんの友達の誰かがジョーカーを引くかもしれないわ」 「聖くんに女装させるってこと?」 「そう、文化祭にピッタリの企画でしょ」 「確か文化祭にはありがちだね。ボクも聖くんの女装は見てみたいけど、絶対ウンとは言わないよ。男らしさに反する事は、聖くんの主義に反するから」 「弱気なこと言わないで。それをOKさせるのが秀平くんの仕事よ」  口では八木女史には敵わない。  秀平は、聖を説得するハメになった。  ところが秀平の予想に反して、聖はこのお願いを快諾する。 「ホントにいいの?」 「別にいいよ。それで秀平の顔が立つなら」  秀平は、聖を拝むようにして言った。 「メンボクない!」  仏頂面だった聖が笑った。 「ハハハ、メンボクないって、侍かよ」  実はこの時、聖はニヤケ顔にならないようにと、わざと声に出して笑っていた。  秀平の前で女装する口実ができたことが嬉しかったのだ。  秀平の汗が染み付いたタオルをおかずにオナって以来、親友である筈の秀平への特別な感情は募るばかりだった。  秀平が好きだ。  秀平を誰にも取られたくない。  だけど、秀平は普通の男子だ。  ミニスカートの女のコとすれ違う時、秀平はいつもそのコを目で追う。  聖は、ミニスカートの似合う女のコが秀平の好みである事を知っていた。  そんな時、聖の胸は不安で押し潰されそうになる。  男の自分が思いを告白しても、今までの友情を壊してしまうだけかもしれない。  しかし、聖は自分が可愛いことを自覚していた。  それなりの格好をすれば、この学校のどの女子より魅力的になる自信もあった。  秀平も「聖なら男でもアリ」だと言っていたではないか。  半分冗談だとしても、秀平の性格から全く思ってもいない事を口にしたとは思えない。 ——外見だけでも好みの女のコになれば、単純な秀平はきっと振り向いてくれる筈……。  裏心が、そう囁いていた。

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