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第9話 仮面の下
聖は少し怖じ気付いたが、笑ってごまかそうとした。
「ははは、大げさだな。優等生の八木女史のことだし、清廉潔白だろ」
だが、沙奈恵はニコリともしない。
「私ね、本当は別の高校に行くつもりだったの。Y高」
Y高校は県内トップの進学校だ。
「そうだろうな。試験当日に体調でも崩したのか?」
「違うのよ。大切な中三の夏休みにセックスに狂っちゃって、ヤリまくっていたの。当然、成績はダダ下がり」
「セッ……」
ストレートな言葉に聖の声が詰まる。
「親に言われて進学塾の夏期講座に行ったのが運のつき、ソイツがいたのよ。この国の最高学府の学生なのに、モデルみたいに顔もスタイルもいいの。そんなのがアルバイトの講師にいたわけ」
「ああ……何か話が見えた。もういいよ」
「まあ聞きなさいよ。ソイツ、音楽もやっていて、ギターをかついでバイトに来てたわ。塾の女の子は、みんなソイツに夢中だった。私以外は」
「女史は違ったのか?」
「ええ。だってそんなのが、中三のガキに興味を持つとは思えなかった。それなら、キャーキャー言うだけ時間のムダだわ」
「まあ、女史らしい考え方だな」
「ところが、それが逆にソイツの気を引いたみたいでね。向こうから近付いてきて、ライブのチケットを渡されたの。たまには息抜きも必要だ、とか何とか言って」
「で、行ったんだ」
「ええ。特別席でライブを観てね、終わった時にはソイツに心を奪われてた。その日の内に処女も奪われたけど」
聖の胸がチクリと痛む。
「それからは、もうヤリまくったわ。毎日毎日。そんな人だから、他にも女が沢山いると覚悟していたのに、全然いなかった。私一筋だったの」
「すまん、今のところ、ただのおノロケにしか聞こえんのだが……」
「話はこれからよ。毎日ヤッてばかりいるとね、ヤルこともだんだんエスカレートしていくの。コスプレしてやったり、外でやったり」
「コ、コス? 外?」
「で、夏休みの終わり頃には、とうとうこんなこと言い出したわ。お前が他の男に抱かれているところを見たい、って」
「え……」
聖は絶句した。
沙奈恵は、自分の絵を見つめながら話し続ける。
「私その頃、本気でソイツが好きだったから、知らない男に抱かれるなんて嫌だったけど、言うことを聞いたわ。ホテルに連れて行かれると知らないオジさんがいて、ソイツの目の前で抱かれたの……」
何が可笑しいのか、力無く笑う。
「……フフッ、ソイツ異常に興奮してね、他の男に抱かれたばかりの私を何度も求めたわ。その時、ようやく気付いたのよ。この男がドの付く変態だ、って」
「じゃあ、そんなに頭も顔も良くて、音楽までやってるのに他に女がいなかったのは……」
「ド変態だから逃げるのね、きっと。それからは、二人きりでセックスすることなんて無くなった。必ず誰かに私を抱かせて、それから抱くの。それも一人から二人、二人から三人と増えていった」
「三人って、同時に?」
「同時よ。そして、次は四人って言い出した時、コイツといるといつか壊されると思った。だって、まだ中三よ。AV女優じゃないんだから」
「別れたんだ」
「ええ」
「賢明だよ」
「ソイツ、土下座して泣いたわ。別れないでくれって。私、何でこんなド変態好きになったんだろうって思った。当然でしょ?」
「ああ……しかし、確かに凄まじい体験だけど、女史が汚れている訳じゃないと思うぞ。おかしいのはソイツだろ」
「話は続くの」
「まだあるの?」
「ソイツと別れたのはいいけど、男を知った身体は、もうどうにも止まらなかった。誰でもいいからって、クラスの遊んでそうな男のコとヤッてみたのよ。だけど、全然ダメ。乱暴なだけだし、早いし」
「そりゃあ、海千山千の大学生やオッサン相手にしていたのに、いきなり中学生じゃね」
「そうよねぇ。だけど、その時はそんな事ないと思った。そのコが特別下手なだけだって。だから、何人かの男のコと試してみたのよ。ホント、私バカだわ」
「同じクラスの? そんなことして、大丈夫だったのか?」
沙奈恵は首を横に振った。
「大丈夫な訳がない。人をもてあそぶようなマネをしたら、必ず酬いがある。私がビッチだって話はアッという間に広がったわ。友達もいなくなって、私が遠くのこの高校に来たのも、それが理由よ」
「反省してんだろ」
「ええ、反省と後悔ばかり」
「今はどうやって我慢を?」
「アダルトグッズを買ってね、色々試してお気に入りがあるの。結局、女は愛の無いセックスでは満たされない。性欲処理なら自分でやるのが確実だし、誰も傷付けないから。それに気付くのに、高い授業料を払ったものよ」
「だけど……そんな話をどうしてオレに?」
「人の口に戸が立てられないしね、いつか聖くんの耳にも入るかもしれない。それなら自分から打ち明けておこうと思って……なぜかしら、聖くんと私って似ているから?」
「似てる? オレ、童貞だよ? それに、この絵の女にオレも似ていることになるな」
「ごめんなさい、前言撤回。聖くんみたいに清らかで美しいコと似ているなんて、おこがましいわね」
「全然、清らかなんかじゃねえよ。オレも汚れてる。女史だけに言うけど……オレ毎晩、秀平をオカズにオナってんだ。親友なのに……最低だろ?」
ところがその瞬間、八木女史の目は異様な輝きを発し、聖の手を強く握った。
「ステキ! ピュアラブね!」
その食い付きように、聖はエビのように仰け反るしかない。
「ピュアラブなの?」
そして、オナニーのやり方まで根掘り葉掘り聞きだそうとする八木女史の勢いに押され、渋々ながらバカ正直に打ち明ける聖であった。
☆
その夜、生々しい夢を見た。
四人の筋骨逞しい男達に犯される夢だ。
次から次へと犯される聖を、秀平はまるでテレビでも見る様に、楽しげに眺めていた。
四人全員が聖の中に射精すると、聖はズルズルと秀平の足元まで這っていく。
「良くできたね。ご褒美だよ」
秀平は笑いながらチャックを開き、ソレを取り出した。
聖は待ち切れずにソレを口に含む。
その時、下半身を快感が貫き、聖は目を覚ます。
ブリーフの中を、熱い粘液が濡らしていた。
「やっちゃった……寝る前に一発ヌいたのに」
聖は呻きなからブリーフを脱ぐ。
自分が情けなくて仕方なかった。
「どこが清らかなもんか……オレはこんなに汚れてる」
部屋にこもった精液の匂いに吐き気を覚え、聖は窓を開ける。
そこには半分だけの月が、何も言わずに聖を見下ろしていた。
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