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第11話 旧友

 ノブとカンとソメッチは中学時代、秀平と仲良し四人組だった。  高校も一緒に男子校に行って、修行僧のような三年を過ごそうと話をしていた。  ところが、秀平だけがT高に合格してしまい、離れ離れになってしまう。  四人揃うのは久しぶりだった。  三人は、秀平に言われた通り、校門から入ってすぐにある時計台の下で待っていた。 「女子が沢山いるな」  ノブが言った。 「ああ、沢山いる」  カンが答える。 「中学じゃ見慣れた光景だったのに、ありがたい事だったんだな」  ソメッチがしみじみ過去を振り返ると、カンがうなずいた。 「まったくだ。ありふれた日常の中にこそ幸せがある。それを忘れずに、日々に感謝して過ごさないと」  男子校における修行僧のような生活は、確かに悟りの境地へと導く効果があるらしい。 「おう、秀平だ……ウソだろ……」  なぜか絶句するソメッチ。  ノブとカンがソメッチの視線の先を見ると、秀平が見たこともないほど美しい少女と歩いて来るではないか。 「T高スゲェ……あんな可愛いコがいるのか……」  ノブはメガネを取り、もっとよく見ようとレンズを拭いた。  秀平はというと、中学時代と変わらない三人に笑顔を見せる。 「やあ、久しぶり。待った?」  三人はシンクロして首を横に振る。  それがアメリカの古いアニメの様で、聖は思わず笑ってしまう。  その笑顔に、三人の表情筋はだらしなく垂れ下がった。 「みんな、今日は来てくれてありがとな。変わってなくて嬉しいよ」  秀平の言葉に、カンが言った。 「秀平は変わったみたいだな。オレらより先に大人の階段を登った訳だ」 「ん? 何のこと」 「しらばっくれないで、オレらにも紹介してくれよ。カノジョなんだろ」 「いや、そんなんじゃ……」 「隠すなって。カノジョさんにも失礼だぞ」  カンの言葉に、聖はニコニコと笑っているだけだ。  ソメッチがカンに耳打ちする。 「アレじゃない? 友達以上、恋人未満ってヤツ」 「ああ、なるほど……」  カンは聖に向かって言った。 「はじめまして。オレ、秀平と同じ中学のカンっていいます。こっちはノブで、こっちはソメッチ」  聖は笑顔で応えた。 「秀平くんの恋人未満です。今日はよろしくね」  三人の表情筋がますます下がる。  秀平だけが焦り顔だ。 「おい、何だよ、恋人未満って」  聖に小声で訴えるが、聞こえないフリで相手にされない。  ノブが呟いた。 「こんな可愛いコがT高にいるって知ってたら、もっと死ぬ気で勉強したのに……」  沙奈恵としては、事の成り行きに満足すべき状況なのだろう。  聖と秀平の距離感が、友達同士のそれから一歩半は近くなっている。  結果オーライというヤツだ。  だが、沙奈恵が本当に見たかったのは、秀平の友達三人が男だとも知らずに聖にメロメロになり、それに焦った秀平が聖に恋人宣言する、といった劇的なシーンだった。  しかし、現実はそう上手くはいかない。  カンとソメッチという男子は、沙奈恵の友人二人とイイ感じだ。  ノブというメガネ男子は、沙奈恵を気に入ったようで、やたらと話しかけてくる。  校内を一周したところで八人は屋上へ行き、評判のクレープをみんなで食べた。  沙奈恵はノブに聞いてみた。 「ねえ、あのコ、どう思う?」 「秀平の恋人未満さん? 美人だね。正直驚いた。でも、八木さんも負けてないと思うよ」 「私なんてどうでもいいのよ。だって、あのコに比べたら、他の女子なんて霞んでしまうでしょ?」 「そりゃあ、比較すればね。だけど、無理に比較する必要ある? みんな、それぞれ魅力的なのに……」  沙奈恵は驚いた。男なんて、顔と身体で一元的にしか女を評価しないと思っていたからだ。 「……それに、やっと秀平に仲のいいコができたんだ。見守ってやらにゃあ」 「秀平くんって、中学でもモテたと思うのだけど?」 「そりゃモテたよ。バク転も大車輪も、何だってできるからね。大学は体操で行くんだろうな。だけど、中学ではカノジョを作らなかった。本当に好きなコとしか付き合わないって言ってたよ」 「ふーん……」  沙奈恵は、秀平と二人でいると感じる居心地の悪さの理由がわかった気がした。  秀平のファンは少なくない。だが、自分に恋愛感情を持っている女子は察するようで、やんわりと距離を取る。  要するに、誰とでもセックスしていた自分なんかとは違う、真っ当な人種なのだ。 「……ご立派なのね」 「アイツは菩薩だよ……」  ノブが真面目な顔で言うので、それが沙奈恵をイラつかせた。 「……けどさ、オレだって剣道ではそれなりに活躍して、中学では……」  懸命なノブの自己アピールも、もう沙奈恵の耳には届いていなかった。

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