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第19話 水族館
水槽の中を泳ぐ魚や海の生き物を見ようと思うのだか、つい聖に見とれてしまう。
これほど美しい存在が自分の恋人である事を、秀平は神にも仏にも感謝したい気分だった。
同性である事に少しても迷った自分をバカバカしく思った。
聖も、常に秀平の熱い視線を感じていた。
その視線があまりにも熱烈なので、実はそれだけで半勃ちになっていた。
ミニスカートの前が膨らまないかと、そればかりが気になって、魚が目に入ってこない聖だった。
イルカショーの時間が近付いたので、プールを見下ろす会場に入った。
雛壇状の客席に座ると、聖の短いスカートは更にズレ上がる。
周囲の男どもの視線が、一斉に聖の足に集まった。
秀平は自分のパーカーを脱いで聖の膝に掛けた。
聖は、秀平の心遣いに感激する。
「ありがとう、秀平。ミニスカなんて始めてだし、寒いと思ってたんだ」
聖は秀平の腕に抱き付き、男どもは何事も無かったかのように、まだ誰もいないステージの方に向き直った。
ショーが始まると、イルカは超絶な技を連発し、会場を沸かせる。
聖も手を叩いて喜んだ。
しかし秀平は、聖の横顔に見とれてしまい、ショーを半分しか観る事ができなかった。
イルカショーの後、二人はフードコートに移動して席を確保する。
「イルカさんって賢いねぇ。オレ、感激しちゃった。あ、ちょっとトイレ行ってくるね」
「うん。何が食べたいものある?」
「えっとね、フィッシュバーガーとポテトのセット。飲み物はコーラで」
「おっ、ボクと一緒だ。頼んどくよ」
秀平は、聖の後姿にも見とれるしかない。
ところが、聖が真っ直ぐに男子トイレに向かって歩いて行くので、秀平は慌てて後を追った。
「聖くん! 聖くん!」
聖が驚いて振り返る。
「どうかした?」
「今日はさ、男子トイレはマズくない?」
「でも、女子トイレに入る訳にもいかないよ」
「多機能トイレにしときなよ。今、誰も使ってないし」
「うん、そうする」
聖は、男子トイレと女子トイレの間にある多機能トイレに入って行った。
「……でね、今日は早起きして八木女史の家に行ったんだ。まだ、家でメイクしたり女装したりする勇気は無いから」
秀平の眉間にしわが寄る。
「ヘンな事されなかった? 彼女、ボクたちのこと、面白がってるよね」
「女史は腐女子だから。だけど、オレたちを応援してくれてるよ」
聖はコーラを一口飲んだ。
ストローの先についたルージュに、秀平の心はザワつく。
「帰りも寄るの?」
「うん、メイクを落としてもらいに。次からは自分でできると思うけど」
「気を付けてよ。女史は、見かけ以上の秘密を抱えていると思うんだ」
聖が上目遣いで秀平を見る。
「アレ? 焼きもち?」
「そんなんじゃないけど……」
「フフフ、大丈夫だよ。女子同士みたいなものだし」
秀平は、ポテトの最後の一個を口に放り込むと立ち上がった。
「じゃあ、観覧車に乗ろうか」
「うん!」
聖も勢いよく立ち上がった。
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