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※新車・ウィズ・ヴェラスコ その2

「ねえハリー、今日は僕のお願いを聞いてくれませんか」  ちゅ、ちゅと子供のようなキスでハリーの唇を啄みながら、ヴェラスコは自分でもあざといと分かっている鼻声で訴えた。 「つまり、僕のやりたい用にやるって事です」 「これでも、君にはかなり好きにやらせてるつもりなんだけどな」 「知ってます。でも」  すり、と肩口に頬を押し当て、はだけた首の付け根に吸い付くのは、乳を求める子猫の要領だ。ハリーが己の甘えた仕草に弱いことを利用するのへ、ここのところヴェラスコは一切の躊躇を覚えなくなっていた。 「こんなに一生懸命、あなたの為に頑張ってるんです。ご褒美が欲しい」  触れ合う位置にある喉元で、ぐうっと唸る音が鳴ったのは、降参の合図だった。 「それで、下着ですけどね」 「まだ言ってるのか。明日5枚くらい重ね履きしてくるから、好きなだけ持っていけよ」 「いいえ、そんな手間を掛けるには及びません」  右手を後部座席へ伸ばし、鞄を漁る。ミネラルウォーターのペットボトルや書類フォルダがシートからが落下し、どさどさと癇に障る音を立てた。 「思ったんですが、要するに貴方のデリケートゾーンへ直接触れていた布地なら良いんでしょうね。なら、今履いているスラックスでも全然構わない」 「スラックスでも」 「こう考えましょう、貴方は今日一日、下着姿で公衆の面前を闊歩していたんです」  ハリーは案外卑猥な悪ふざけが好きで、この手のジョークを打ち返されれば、衒いなく爆笑して見せる。けれど今、影になったヴェラスコの顔を見上げる目に、冗談の色は窺えない。 「なあ、君、本当は凄く疲れてるだろう」 「元気一杯ですよ。今すぐあなたを犯したくて堪らない」  左腕を使い、敷き込んでいた両膝を胸元へ押し付ける格好で持ち上げる。驚いたハリーが身を捩る前に、「じっとして」と短く確たる物言いで抵抗を制した。  右手に握った鋏をじょきじょきと動かし、丁度アナルのある部位を、手のひらほどの大きさに切り取ってしまう。 「ヴェラ!? ちょ、一体何を……」 「しーっ、ハリー、怪我します」 「うるさい、馬鹿! 今すぐやめないと……」  言い終わる前に突きつけられた、ダークグレーのミルド生地を前にし、ハリーはただただ唖然としていた。 「秋に仕立てたばかりのヒッキー・フリーマンが……」 「前から思ってたんですが、このスーツ少しカジュアル過ぎますよね」 「ローイング・ブレザーズばかり着てる君に言われたくない……!」  彼が言葉を詰まらせたのは、ヴェラスコが膨らんだ前立てを剥き出しになった場所へ押し付けて来たからだ。上半身はシャツ一枚と言え、ベルトから下は何一つ乱れていない相手に、完璧な着衣の中、唯一暴かれた場所を蹂躙される。 「ぁ、馬鹿、ばか、ぁ、っ」  余りに倒錯した状況に、ハリーは混乱しつつも、しっかり感じていた。布越しではあるが、摩擦によって蒸れた肌へ更に汗が噴き出し、曝されたアナルがひくひく痙攣していることなら、見ているかの如く想像することが出来る。 「こ、の、変態!」 「何とでも」  期待する穴を素通りして、しっとりとした肌触りの会陰を指で辿れば、弱い電流を通されたように上半身が浮き上がる。 「、ぅーーー!」  ぐいぐいと押し込んだり、こりこりとしたしこりを揺さぶったり、己の指一本で相手が翻弄される様子を見るのは、えも言われぬ高揚を産む。  ハリーは必死に身じろいで、もう薄らと開き始めている窄まりへ指先を誘導しようとする。そう簡単に中を触ってはやらない。いや、挿れなければ良いか。手のひらの硬い部分で、綻んだ柔らかい粘膜を潰してやる。 「は、ぅ、ぁ、ぁあ、っ」  手首を使って、穴がもみくちゃになって歪む程擦ってやれば、くちくちと粘ついた音が車内に響く。己が熱くなっているのか、触れるハリーの肉体が熟んでいるのか、把握することをヴェラスコはとうに放棄していた。 「ゃ、ヴェラ、そんなのじゃ……」 「足りませんよね」  高く掲げられた足は片腕で抑えきることが出来ないほど躍動する。ぴん、と爪先まで伸ばして突っ張り、天井にぶつかったかと思えば、不意に脱力するものだから、危うく脳天に踵落としを喰らいそうになった。  落とすように解放し、あい見えたハリーへ見せつけるよう、ヴェラスコは粘液にまみれた掌底をべろりと舐めた。まるで自身に舌を這わされたとでも言わんばかりに、ハリーはびくりと大きく肩を跳ねさせる。 「僕もあなたに挿れたい」  ハリーが火のような吐息を溢す唇を舐めたのは、無意識の誘いの仕草だった。そのまま乾かしておくのが惜しく、ヴェラスコは上半身を傾けた。頻繁に唇を外して息を吸い、らしくもない辿々しさで精一杯相手についていこうとする舌遣いは、どれほど彼が蕩けているかを教えてくれる。 「はやく、ほしい」  昔ならば、と言うのはハリーと体の関係を持つようになる以前の話も含むが「来て」と誘われたら遠慮なく飛び込むのが常だった。けれど今は、自らが侵入させて貰う場所を慮る位の気遣いだって持っている。  弛緩した肉体は、そろりと忍び寄る手指を、無邪気に歓迎した。だらしない半円形の形に開いていたアナルが、ぱくっと指先へ食いついたのを確認してから、ずるりと中へ滑り込ませる。先ほど外側から刺激し温めておいたから、可愛い前立腺はすっかり腫れ上がっていた。 「ん、っう、あ、あっ、ヴェラっ」  わざと周囲だけ、円周を測るように撫で摩り、膨らみを強調するかの如く柔らかな粘膜を指で撓ませる。最も鋭敏な場所の一つである痼りを他人の思うがままにさせることで、ハリーの身体は屈服した。直腸の動きが、異物へパニックを起こしたような強い締め付けから、積極的に蠕動するような柔らかさへ変わるにつれ、指を動かすのも一苦労になってくる。   「っ、ん、ああっ」  まるで最後の抵抗と言わんばかりに、ハリーは覆い被さるヴェラスコの背へしがみついた。肩や、ランニングシャツの襟ぐりを引き伸ばして潜り込ませて辿り着いた肩甲骨を、力任せに引っ掻く。深爪された指では然程痛くもないが、一つの合図であることに間違いない。 「、ハリー、お待たせしました」  パッケージを口で破り、取り出した避妊具を己のペニスへ被せているかつての後輩に、ハリーは胸を喘がせながら凝視を突き刺す。 「君、何だか最近、前にも増して、男になった……」 「僕は最初から男です。知らなかったのはあなただけで」  そうしたり顔で豪語するものの、ヴェラスコだって分かっていた。ハリーにいざなわれ、曲がりなりとも政界と言われる場所へ足を踏み入れてから4年近く。特にここ最近の激務を始め、確かに世界は神や仏へでも縋りたくなるほどの苛烈さだが、間違いなく己を成長させてくれている。  問題は、ハリーがこの進歩を、然程喜んでいないということ。    幸か不幸か、ゆっくりと、様子を見ながら屹立を押し込んでいくと、文句は立ち消える。 「はっ、あ、うん、っ」  目を閉じて、眉根を寄せながら喘ぐ姿は、そこらのポルノスターなど目じゃないほど腰に来る。だがよく観察していれば、そこには、ただ自らの体で他者を受け止めるだけではない痛みが混ざっているような気がした。 「ヴェラ、くるし……」  息も絶え絶えに訴えられたのを、最初ヴェラスコは挿入の痛みなのだと勘違いした。が、すぐに、下腹で存在を主張するもののことだと思い至る。  破いたのは尻周りだけ。可哀想に、ハリーのペニスはすっかり力を持って、股間部分の布をきつく押し上げている。柔らかく、くすぐったくなるような毛羽が心地よいファブリックはクリーニングで縮みやすいから、黒く染まる体液の滲みはもう手の施しようがないだろう。 「ああ……」  すいません、と口にしたつもりだったが、恐らくハリーには聞こえなかっただろう。ヴェラスコはもごもごと言葉を口の中で転がし、スラックスに両手を掛けた。そのまま、自分が作った切れ目から、布を引き裂く。 「ヴェラ!!」  勢いよく飛び出したペニスに思わず笑い声を上げながら、そのまま体重をかけて、根元まで押し込んでしまう。 「あ゛、あああ……!」 「ハリー、大丈夫。気持ちよくなるだけですよ」  荒げられるハリーの呼気を飲み込む勢いで、甘ったるく接吻を繰り返しながら、ヴェラスコは声を弾ませた。  じっと、掬うような、けれど間違いなく愛しさが籠った上目遣いで見つめられ、やがてハリーは「くそっ」と吐き捨てた。 「そんな可愛い目で見たって、だめだからな……!」  普段の彼は、自らの部下の諫言へなかなか耳を傾けない。けれどこんな時に限って言えば、この年上の男は己にとことん弱い。そのことを、ヴェラスコはこの世の誰よりも知っている自信があった。

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