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※バスルーム・ウィズ・エリオット その2
身をしならせて胸への愛撫を受け入れている間にも、ハリーは着々と準備を進める。今や興に乗った身と心は抑えを知らず、胎へ差し込む指も3本に増えていた。
「は、ぅう、ん」
熟れ始めた実のような薄紅色へ染まった体が揺れ、ちゃぷちゃぷと飛沫が跳ねる。しなる背はエリオットを刻一刻と壁際に追い詰め、胸で押し潰さんばかりの勢いだった。
意趣返し、いやこれは手助けというものだ。片方ばかり口で愛され、すっかり不貞腐れているハリーの胸の尖りに指を滑らせ、軽く引っ掻いてやる。
「やっ、」
機敏に上下した尻へほくそ笑み、反対の手は見事な湾曲を描く背中をそっと撫で上げ、辿り着いた項を捉える。そのまま素直に引き寄せられてきた喉元へ唇が寄せられても、ハリーは拒まない。寧ろ出来る限り顎を反らして、相手を迎え入れようとした。
「んっ、く、エル、っ」
一度吸い付いて、ここに与えるのだと示せば、それだけでもう腕の中の体に、ぶるっと期待が走り抜けたと分かる。急所である太い血管にどくどくと血が通っているのを眺めるだけでなく、触れた唇の粘膜で知ると、欲望を抑えられない。時間をかけて息の根を止めるよう、エリオットはゆっくり歯を立てた。もう軽く絡ませる位では簡単に指先から逃げてしまう、凝った胸の粒を、強く摘んで引いてやるのも忘れない。
「あ、あぁーー……っ」
ぽたぽたと、粘性を増した唾液が、開きっぱなしの口から滴り落ち、肩を汚す。すぐさま汗と蒸気に溶け消えるそれが少し惜しい。更に手を持ち上げて髪に指を差し入れると、ハリーの頭を引き下ろし、今度は無防備な唇を貪った。
積極的に絡んでくる舌を往なし、弾けた果実から蕩ける甘露を啜るように奪ってやり、エリオットが本気になって翻弄に掛れば掛かる程、ハリーは喜びに身を震わせる。
「ん、んっ、ふふっ、がっついてるな」
「ああ。君を前にすると、我慢が効かなくて困る」
「困らないでいい」
潤み腫れた唇へ続く銀糸を舌先で切り落とし、ハリーは目を細めた。
「もっと、夢中になってくれ」
うっとりとそう挑発するこの男こそが、行為へ没頭している。角度を変えて、より貪欲に口付けを深める合間、エリオットの薄い腹筋へ勃ち上がったペニスを押し付けた。微かな凹凸でも、神経そのものである裏筋への刺激として十分事足りるのだろう。
「あ、はっ、エル、これ、きもちいい、も、良すぎて、むり」
唇が外れる合間にそう訴えつつも、後孔を暴く指の動きは激しさを増すばかりだった。ペニスを慰めようと腰を振っているのか、それともアナルからくる神経の指令で勝手に下半身が揺すられ、前へ刺激を波及させているのか。もはやハリー本人ですら分からなくなっている。欲しいのは快楽だけ。過程なんてどうでもいい。欲望の申し子と化したハリーの乱れ方は、いっそ暴力的に相手を高みへ連れ去る。
こんなに敏感な肉体を持っていたら、俺ならとてもじゃないが誰かとファックする気になれないだろうな。露わになった恥知らずな体へ唇を落としてやりながら、エリオットは考えた。ハリー・ハーロウは何も恐れない。これまで培ってきた努力と活躍に裏打ちされた自信が全身から漲り、産毛の一本まで煌めくようだった。
彼が自らに不安を抱く必要なんてどこにもない。なのに、今湯へ潜らせた手でエリオットのペニスを掴みながら、そろっと様子を窺う上目遣いの寄る辺なさはどうだろう。
「君も、感じてるな」
「そりゃあ、こんな刺激的なショーを見せられたら」
「じゃあ、は、僕ももう、がまん、限界だ」
生意気な子供じみた形で顔を顰め、ずるりと指を引き抜くと、ハリーは改めてエリオットの肩に両手を乗せた。
「ん……エル、どう? 湯あたりしてない?」
「君にすっかりのぼせ上がってるよ」
「馬鹿だな……ん、く、ほら、ここ……」
きて、と囁かれたエリオットが動き出す前に、ハリーは自ら腰を沈めようとする。が、湯の浮力で不安定なのか、なかなか目標が定まらず、徐々に膝から震えが走り出す。
「ハリー、落ち着いて」
「ぁ、くそっ、もう……っ! エル、手伝えっ」
焦れてすっかり気の短くなったハリーがこれ以上の癇癪を起こす前に、エリオットは逞しい腰を両手で掴み、導いてやる。軽く竿を扱いてから、ひくつく窄まりに押し当ててやると、ごくりと生唾を飲み込む音が浴室内に響くかのようだった。
「あ、あああ、っ」
まるで体内へ屹立の飲み込まれていく様が、皮膚と筋肉越しに透けていると言わんばかり。どろどろに解れた肉が割られ、痛いほど充血した快楽の源が抉られていく己の腹を朦朧と見下ろすことで、ハリーは直腸をきゅう、と締め上げた。
「ぁ、つい、エル、ここ、あつい、っ」
徐々に浸圧してくるのはペニスだけではない。押し込む動きへ便乗して雪崩れ込んでくる湯に敏感な場所を膨らまされ、ハリーは短く喘いだ。
「きつ……ぅ、まだ、何もされてないのに、中へ、出されたみたいだ」
「気持ち悪い?」
エリオットが優しく尋ねれば、ハリーは耳まで真っ赤になった顔を、黙って横に振る。それどころか、拡張されている下腹を手のひらで撫で、時に軽く押して中の液体を撹拌して見せる始末だった。
エリオットからすれば、給湯器で温度を保たれた湯よりも、ハリーの体の方が熱くて仕方がなかった。ざらついた襞、薄められているはずなのにとろりと絡みついてくるような体液。このままじっとしていれば、虫を喰らう食虫花のように、己のペニスが溶かされてしまいそうだ。
ゆっくりと、注意深く腰を突き上げてやれば、ぐちゅぐちゅとはしたない水音が天井まで駆け上る。
「やっ、える、これ、はずかしい」
「大丈夫だよ、ハリー」
ぼやける響きに羞恥を覚えるなら、別の音で上書きしてやればいい。今や湯船の中は時化ほどに荒れ狂い、時折床へざぶりと大きく水が飛び出す始末だった。
激しく下半身を振り立て、時に自ら窒息しそうな勢いの苛烈さで唇を重ね合おうとするハリーは、本来かなり危うい場所まで追い込まれているのだろう。時折縋り付く指先から力が抜け、くらりと体が傾ぐ。
「ハリー、一旦風呂から出よう」
「ん、平気、っ」
「このままだと、湯当たりで起き上がれなくなるぞ」
「いやだ!」
背中へ回された腕の頑是なさは、喚かれた悲壮な声音で笑えなくなる。脚まで使って、エリオットへしがみつき、ハリーは額を肩へと押し付けてきた。
「だめだ、ゆるさない! この浮気者!」
「ハリー……」
今ここで、どんな宥めすかしを巧しても、ハリーは決して納得しないだろう。抱き返してやりながら、エリオットは彼が再び口を開くのを待った。
ぐずっと鼻を鳴らす、みっともなさにすら気を払えなくなるほど、もはやハリーは形振り構わない。まるで犬が阿るように、汗の浮いたエリオットの首筋を舐めながら、怯えた声で訴える。
「……僕を、離さないでくれ。例え君が、僕をいらなくなっても」
今この瞬間、ハリーが自分自身に嘘をついたと、エリオットは悟った。
そこまで厳しい言葉で糾弾してやるのは、酷なのかもしれない。エリオットが見込んだ通り、ハリーは優秀な男だ。この4年で、彼は学んだ──もう、エリオットの助力などなくても、薄汚い場所で戦い抜ける程に。エル・エリオットの他に、戦略官は幾らでもいる。けれど、ハリー・ハーロウは、何者にも代え難い。
「ハリー、少し腕を緩めて」
「エル、っ」
「大丈夫だよ」
バスタオルを手探りし、びしょ濡れのタイル床に投げつける。「そこで横になって」と指させば、ようやくハリーは、震える手でバスタブの縁を握り、脱力した体を起こした。
こんなところで盛ったら、冗談抜きで明日のハリーはベッドの住人になるかも知れない。だが差し出された腕に求められるまま、エリオットはハリーの体へ体を重ね、再びその燃える場所へ己の身を沈めた。
「あ……」
「ハリー、苦しかったら」
「平気、もっと……」
汗とも涙ともつかない、煮えるような雫が流れるままの顔が、ようやく微笑みを浮かべる。
「……蠍の毒は、遅効性だ。君が振られて落ち込んでいるのを見て、ようやく気付いたんだ。僕は君を、誰にも渡したくない」
凶暴な毒虫の文様が刻み込まれた背中もまた、玉の汗が吹き出している。そこを恍惚と撫でるハリーの表情が、余りにも愛しいから──きっと、この男にだけしか向けられない感情だから──エリオットは、濡れて額に張り付く眼前の髪を指で払い、何度も頭を撫でる。
「君は欲張りだね」
「うん」
「それに、自分勝手で、狡猾で、生まれついての政治家だと思う」
「知ってる」
「でもね」
「凄く良い子だ、私が出会った誰よりも」。そう囁けば、ハリーは今度こそ、眩しい程の喜悦で瞳を輝かせた。
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