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俺、ゲイだっつったよな? 1-2 | 海鳴ケイトの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
俺、ゲイだっつったよな?
1-2
作者:
海鳴ケイト
ビューワー設定
2 / 18
1-2
永嶋
(
ながしま
)
京也
(
きょうや
)
とは、同じ中学だったけれど同じクラスになったことは一度もなかった。 初めて言葉を交わしたのは中学三年の夏のことで、それは学校の外だった。 「あんた、もうすぐ受験でしょ。夏休みから塾行きなさい」 猛暑の午後、終業式を終えて帰宅した胡南が冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出していると、通りすがりの母親が唐突にそう言った。 「え、なんで。別に俺、大丈夫だよ。今の成績でも行ける高校あるよ」 「あんたねえ、進学っていうのは人生を左右する大事な選択なのよ。なんとなーくで決めるんじゃなくて、もうちょっとがんばってみなさいよ。先生だってほら、やれば伸びるはずだって言ってたでしょ。せっかくだからちょっとくらい、無理したらどうなの。もう申し込みしちゃってるからね。授業料だって払っちゃったんだから、ちゃんと行きなさいよ。行かないとお小遣いないよ」 立て板に水のごとく言い放つと、胡南が言葉を返す間もなく母親は洗濯物をしまいに二階へと上がっていってしまった。 無理をして勉強したところでしんどいだけだし、今の実力でがんばることなくそこそこの高校に入れればそれでいい。と胡南は思っていたのだったが、小遣いがなくなるのは困る。それで、しかたなく塾へ行くことにした。 胡南は別に、勉強が好きなわけではないが、ことさら嫌いということもない。数学は苦手だが、国語や社会は得意なほうで、ことに歴史にはおおいに興味があった。残念ながら周囲にははるか昔の人々の暮らしや人となりに関心を示す友人は皆無で、高校にもし歴史研究会なんてものがあればぜひ入部してみたいと思っていたのだけれど、あいにくそれらしき部の存在は確認できずになぜか胡南は今クイズ研究会にいる。 それはさておき、中三の夏ともなると来たるべき受験に備えて大半の生徒が塾へ行ったり部活を引退して勉強にいそしんだりしていて、だからまあ胡南としても、そういう流れになることはしょうがないと受け入れる姿勢ではあった。 心配なのは、ひとえに、また新たな友人関係を構築しなくてはいけないことだ。 母親が勝手に決めてきた塾は、胡南の友人たちが通っているのとは違う系列で、自宅から自転車で三十分もかかるところだった。知り合いも誰もいないところで、受験までの期間をひとりぼっちで過ごすのかと思うと気がふさいでしかたなかった。 そんな不安を軽やかに吹きはらってくれたのは、
浦辺
(
うらべ
)
という男子だった。 「今日、初めて?」 夏期講習の初日、受付で手続きを済ませて指定された教室に入り、特に決まっていないというから適当に座った席の、隣が浦辺だった。胡南が鞄からノートを出していると、そう話しかけてきたのだ。 「う、うん。そうなんだ」 「やっぱり。なんか落ち着かない感じしてるから。このあとの数学の先生さ、私語とか居眠りとかすごい怒るから、気をつけたほうがいいよ」 「そうなんだ。ありがとう」 こんなに自然に初対面の相手に話しかけられる素直さが、胡南にはひどく頼もしく映った。浦辺は黒縁のメガネの優しい面立ちで、小柄で、瞬間的に胡南は、仲良くなれそうだと思った。 同じにおいがする、と感じたのだ。 胡南は、どちらかといえば冴えないタイプ、という自覚があった。背は低いほうだし、良くも悪くもない平々凡々な容姿で、クラスの中でも存在感は薄い。だから、目立つタイプは苦手だ。クラスの中心になるような、女子と気軽に会話できるような、いわゆる、人気者というやつ。そういうタイプが嫌いというわけではなくて、相対するとどうふるまってよいかわからなくなるのである。 「胡南くんはどこの中学?」 訊かれて、胡南が学校名を告げると浦辺は嬉しそうな顔をした。 「そこ、友だちがいるよ。僕、第二小だったんだ」 「そうなの?」 第二小学校は、胡南の住む第一小学校の地区の隣の校区で、私立などに進学しない限りは同じ中学に進学することになっている。 「僕、中学に上がるときに引っ越しちゃって、校区が離れちゃってさ。この塾で小学校のときの友だちと一緒になって、二人いるんだけど、
杉戸
(
すぎと
)
ってやつと、もうすぐ来ると思うんだけど、あ、来た来た」 浦辺の目線を追って教室の入り口に目を向けると、手を振って駆け寄ってくる男子が見えた。胡南と同じ中学のはずだが、見覚えはない。そもそも胡南は、人見知りゆえにあまり人の顔を見ないので、自分のクラス以外の生徒をほとんど覚えていない。 杉戸は、胡南や浦辺とそう変わらない身長で、体型は少々丸みをおびていて、こちらも人あたりのよさそうな顔つきだった。どうやら彼とも仲良くなれそうだ、と胡南はほっとした。おかげで、受験まで一人寂しく勉強をするというような地獄からは抜け出せたようだ。 浦辺や杉戸と言葉を交わしていると、もう一人、というやつが授業開始ぎりぎりにやってきた。 「遅いよ、永嶋」 声をかけられた彼は、特に急ぐ様子もなく近寄ってきて、杉戸の隣の席についた。そこは、胡南の前の席だった。 浦辺と杉戸の友人だというから、胡南はすっかり油断していた。 永嶋は長身で、すらりとした体躯で、無造作に伸びた髪や不愛想な雰囲気を考慮したとしても、明らかにタイプが違う。浦辺や、杉戸や、胡南とは、まったく。 クラスの中心グループの中で、目立たないけど発言力があるような、ヤンキーにも一目置かれるような、女子にも密かに人気のあるような、いわく、胡南がもっとも苦手とするタイプ。 もしかして、実はこいつがボス的な存在なのでは、と胡南はひるんだ。よもや自分もその配下みたいになるんじゃないか。この中では新参者の胡南が一番ランクが下で、パシリにされたりカンニングさせられたりするんじゃないだろうか。せっかく学校ではなんとか平穏に過ごせているというのに、まさかこんなところに地獄が待っているなんて。 そんな胡南の密かな動揺など知らず、浦辺はいたって平然と朗らかに話し出した。 「永嶋、胡南くん、第一小だったんだって。同じ中学なんだって。知らない?」 横向きに座った永嶋にちらりと視線を向けられて、胡南は息が止まりそうになる。 「……何組?」 「あ、えっと、五組」 「俺、二組だし。知らね。悪い。杉戸は?」 「うん、俺も知らなかった。胡南くん、生物部なんだって」 「へえ、すごいな。生物部って」 何がすごいかわからないけれど、ローテンションとはいえ感心されて胡南は戸惑う。自分もなにか、言葉を返さなければと焦る。 「全然、すごいとかなくて。あの、永嶋くんは、何か部活やって、」 「それ」 「え?」 言葉を遮られ、胡南は更に焦る。 「な、何」 「くんづけとか、やめねえ? 俺そういうの苦手。永嶋でいいよ。俺も胡南って呼んでいい?」 「う、うん。全然、大丈夫」 「じゃあ僕らもそうしようか」 浦辺がそう言ったところで、チャイムが鳴って講師が入ってきた。永嶋が前を向いて座り直したので、胡南はほっと息をつく。 見た目はともかく、目立つタイプにありがちな強引さや積極さはなさそうだった。でも、永嶋の眼差しは妙に、胡南を緊張させる。そのうち慣れるのかもしれない。浦辺も杉戸もいるし。 永嶋との出会いは、そんな感じだった。
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