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塾では、浦辺を交えて頭を寄せ合うようにして席をとり、休み時間によくしゃべった。
主に、胡南は浦辺とマンガの話をした。生物部なんて一年のときに仲よくなった友人に誘われて入っただけで、活動がほとんどないのをいいことにすっかり幽霊部員だ。本当は生物なんかよりマンガのほうが好きなのだ。しかもクラスで話題の流行りのマンガより、設定の混み入ったシュールな内容を胡南は好んだ。その点で、浦辺とは話が合った。
永嶋と杉戸は将棋をすることが多かった。駒が磁石になった小さな盤を使っていたが、それを忘れたときは詰将棋なんかをやっていた。杉戸はいかにもそんなタイプだったが、これについても胡南は、永嶋のことを意外に感じていた。
永嶋、将棋とかするんだなあ。
人見知りゆえ、胡南は校内でクラスメイトや親しい友人以外の存在をあまり認識することがなかった。
でも顔見知りになった以上、永嶋や杉戸の姿を見かけると自然、意識を向けるようになる。
杉戸はイメージどおり、地味でもなく目立つほどでもない男子たちと連れ立っていた。反して永嶋はたいてい、活動的かつ影響力の大きそうなタイプの男子とばかりつるんでいる。彼らはとても将棋をさしそうには見えない。そんな永嶋と杉戸が友だちなんて不思議だな、などと胡南が感じるとおり、学校で杉戸と永嶋が一緒にいるところはほとんど見かけなかった。
他にも、気にしていればクラスの女子の話題の中に永嶋の名前がよく上がっているのが耳に入ってくる。二組の永嶋くんがね、とか、さっき永嶋くんとすれ違っちゃった、とか。
永嶋ってやっぱ、モテるんだなあ。聞くともなしに永嶋の話題を聞きながら、胡南はそんな永嶋と、塾ではまるで同じグループの一員であるかのように過ごせているのが少し、誇らしく思ったりするのだった。
塾のおかげで、胡南の成績は飛躍的に伸びた。志望校のランクが二つほど上がったくらいだ。
「だから言ったじゃない。やればできるのよ。勉強なんてどうせ学生のうちしかやんないんだから、やれるだけやんなさいよ」
というのは母親の弁だ。あながち、間違ってないかと胡南は納得する。今のうちだけだし。学生のうちだけがんばるか。そう思って、担任も太鼓判を押すのでランクを上げた志望校を受験することにした。
受験勉強が本格化し始めると、休み時間にのんきに雑談などする余裕もなくなり、学校でも塾でも追われるように日々を過ごすうち、浦辺たちと顔を合わせる機会が減って、気づけば受験が終わって塾を退会していた。
杉戸や永嶋とは校内ですれ違うことはあったが、挨拶がわりの合図以上の交流はなかった。胡南は無事希望どおりの高校に合格していたが、他の三人はどうだっただろう。
浦辺は近隣でも最難関の進学校を志望していたが、彼の成績ならきっとまず間違いない。永嶋も、胡南にとってははるか高みにあるようなレベルのところだった。杉戸は胡南が当初に受けようとしていた高校だった。
でももし、落ちていたら。そう思うとうかつに結果を訊ねることはできなかった。向こうもそうだったに違いない。
胡南は胡南で、新しい学校生活のことを思うとがぜん不安満載で緊張に押しつぶされそうになり、塾で親しかった彼らのことを思いやる余裕もなかったのだった。
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