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第2話
浬は高校を卒業した去年の三月に交通事故に遭った。横断歩道を渡っているときに信号無視した車と衝突して、頭を強く打ち記憶を失った。
不幸中の幸いか、喪失した記憶は人の名前と関係、そして自分のことだけで日常生活に大きな影響はなかったが、両脚が折れる重症でしばらく入院を余儀なくされた。
退院してからもリハビリや通院があり、一年休学してやっと今年上京できた。
地元ではやんちゃをしていたらしい『浬』を浬は心底軽蔑している。絶対にこうなりたくない指標でもあった。
新しい大学、新しい友達。
浬の人生は再びスタートを切った矢先にあの男に会った。
(一体誰だろうか)
オリエンテーション後に福祉科の教室を覗いてみたが男の姿はない。
でもこれでいい。
『浬』のことを知っている人には関わりたくない。
「浬、このあと履修一緒に組もうよ」
肩を抱かれて驚いた。辻は人との距離が近いが、慣れない距離感にどきまぎする。
「いいよ」
「じゃあカフェテリアに行こうぜ」
構内にあるカフェは新入生で溢れていた。外のテラス席まで埋まり、あぶれたグループは中庭のベンチに腰掛けている。
幸いちょうど二席空き、目敏く見つけた辻が席を取ってくれた。
「じゃあさっさとやろうぜ」
「うん」
浬はルーズリーフを出し、時間割表を書いた。シラバスを読みながら気になった講義や必修の講義を書き込んでいると辻はそのまま書き写している。
「辻くん、それだと僕と全部一緒になっちゃうよ」
「いーから、いーから」
手を振って人懐っこい笑みを浮かべるだけの辻に首を傾げた。
履修を組み終わる頃にはどっと疲れた。あれもこれも気になる講義ばかりで取捨選択するのに苦労した。
「これで一年分終わったな」
「そうだね」
「帰るか」
校門で辻と別れ、浬は駅とは逆方向の自宅へと向う。 一人になるとやっと呼吸ができるような安心感があり、あんなに一人は嫌だと思っていたのに矛盾していることにしばらく気付かな かった。
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