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第14話
バザーが終わり、打ち上げのために駅前の居酒屋に移動した。酒と料理が 揃った頃に辻がひょっこりと現れ、浬は驚いて声をかける。
「辻くん!」
「よ、浬お疲れさん」
辻は人懐っこい笑みを浮かべ、浬の隣に座った。正面の羽場とは一度だけ視線が合うとすぐに反らしたのを盗み見て、これではマズイと気を奮い立たせた。
「今日は用事があったんじゃないの?」
「さっき終わってそのままこっち来たんだ」
「そっか。来れてよかったね」
「飲み会は楽しいからな」
浬はその言葉に違和感を持った。それはまるでバザーが楽しくないような言い方だ。
西藤が乾杯の音頭をとり、明るい声が四方八方から飛んできてしまい、話はそれで打ち切られてしまった。
辻はビールを一気に煽り、次々につまみを平らげている。
「今日はどんなことをしたんだ?」
「子どもたちに点字を教えてたんだ」
「大変だったことは?」
「んーどうしても紙に穴を空けちゃう子が多くて、力加減を教えるのが難しかったかな。あとは点字を打つときと読むときは逆になるから、間違える子が多かったよ」
「なるほどな」
辻はどんどんと質問を重ね、浬の返答をスマートフォンにメモしていているようだ。
「どうしてそんなに知りたいの? 僕が言うより実際に経験をした方がいいと思うよ」
「おれにも事情ってもんがあるんだよ」
「面倒なだけだろ」
羽場の言葉に辻は片眉を跳ねさせた。
「は?」
「図星を指されて逆ギレか?」
羽場と辻が睨み合いを始め、浬は間に挟まれておどおどと二人を見比べた。 辻は顔を真っ赤にしているのに対し羽場は涼し気だ。その異様なまでの温度差はどちらが有利なのか物語っている。
「そういうことばかりやってると痛い目に遭うぞ」
「羽場には関係ないだろ」
「藍谷をいいように使うな」
「おれと浬は友だちなんだよ。友だちが困ってたら助けるもんだろ?」
「友だち?笑わせる」
羽場が鼻で笑うと辻はジョッキをどんと叩きつけた。
「ここで飲んでたら酒がまずくなる」
羽場を睨みつけてから辻は隣のテーブルへ移動してしまい、二人の仲は完全に決裂してしまった。
「どうしてあんな言い方するの?」
「おまえも薄々気づいてただろ」
反駁する言葉が見つからない。辻はサークルや講義に参加せず、いつも浬に任せっきりだった。
代筆するくらい、レジュメを多くもらうくらい、ボランティアの内容を伝えるくらい。
その「くらい」がたくさん積み重なって浬の負担になっていた。 友人のために我慢をする「くらい」なんともないと思っていた。
そうすれば一人になら ないで済む。
「あいつは講義も出席しないで、藍谷に頼んでばかりだろ」
「用事があるって言うから」
「サボってばかりの奴に用事なんてあるか」
やはりそうなのかと納得してしまう自分が悲しかった。ただ利用されているだけだと気づいていたが見ないふりをしてきた。
「それにあいつは内申のためにウェルネスに入ったと言ってた。ボランティアをやってたって言えば就職活動のとき有利だからな」
羽場の声には軽蔑を含まれていた。
ボランティアを熱心に取り組んでいる西藤たちを莫迦にした行為に羽場は腹がたったのだろう。
浬の目に涙がこみ上げて頬を伝った。
「おまえは相変わらず人を見る目がないな」
長い指で涙をすくってくれる羽場は困ったような 顔をしていた。どうしてそんな顔をしているのだろうと訊きたいのに、嗚咽しかでてこなかった。
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