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第3話 ゆっくり、ゆっくり
「あ、っは、ン、ちょっと、ねえ!」
「んー、なあにー? すっごい気持ちいでしょ? 結構焦らすから、それだけ我慢してね」
ハクトはそう言って、俺の体を穿ったままゆらゆらと腰を揺らす。その度にじわりと上がるエネルギーがそこに溜まり、積み重なっていった。
——これ、なんだろう……。これまでに経験してきたものとは違う。
俺とハクトが繋がっている部分から、体の中へと流れ込む熱には、迎えてはいけないものが待ち受けているような気がして仕方がなかった。そわそわと逸る部分に、耐えられなくなった雫が光る。
ハクトはずっと、何かを探るように角度や範囲を変えながら進んでくる。俺は、信じられないくらいに進んでいく熱の塊に、これからどうされるのかと、少し恐れを感じるようになってしまっていた。
「ハ……ク、っ! や、やだっ!」
されていること自体が怖いということもあるけれど、『体を作り変える』なんて言われて平気でいられるわけが無い。殺されるのだろうかという恐怖が、どんどん強くなっていた。
「薫次、怖いの?」
俺を見ながらにこやかにそういうハクトに、首がもげそうなくらいに頷いてそれに答える。でも、ハクトはそれを訊いておきながら離れてくれるわけでもなかった。
「ひぃあっ!? あ、なんっ……」
なんだかわからないけれど、体がブルブルと震える。僅かに開閉する唇に気がついても、それを止める事が出来ない。
「やぁん、なに、そこ……や、だっ!」
「あー、ここだね。よしよし、いっぱいなでなでしますよー」
切羽詰まって顔を顰めている俺のことを楽しそうに諭しながら、ハクトは腰をぐるぐるまわし始めた。その途端に、目の前をチカチカと何かか光って弾けた。それと同時に、恐ろしいくらいの快楽の波が起きた。
——なんだこれ! 怖い、怖い、怖い!
それは本当にすごすぎて、逃げ出したくなるほどの気持ちよさで、これから逃げられるのなら、自殺なんてしません! と言い切れるくらいのものだった。
それでも不思議なことに、口から漏れるのは嬌声だけで、情けないくらいにだらりと口を開けて、好き放題にヨダレを垂れ流していた。
「やあ、もう……も、いっ……ン、く、ン……!」
「いいよー、どうぞ。何回かイッてもらわないといけないから、頑張ってねー」
「っ、へええ? あ、あ、ああ、あああっ」
俺の抱え上げられた両足の上に乗ったハクトが、俺の飛沫と一緒に迫って来てキスをした。腹の上のぬるぬるとした感触と、繋がったところのとろけた感じ、そして口に感じる熱が一緒になって、身体中がビリビリと痺れ、喜びに包まれる。
「ふあああああ」
何かが弾け飛ぶような感じがした時に、同時に鋭い痛みを感じた。思わず体がびくりと跳ねる。それを見たハクトが、優しい笑みを浮かべた。
「お、第一段階終了ー。はい、まだ続くよー」
そう言って、体をぐるりと回転された。うつ伏せになった状態で、ハクトから背にのしかかられる。その重みを感じると、なぜだかふわりと体が軽くなったような感覚がした。
「え? なんか今体が軽くなった気がした」
すると、ハクトは楽しそうにケラケラと笑い声を上げた。
「そりゃあそうでしょ? だって、強い体に作り替えてるんでしょ? 病気にも怪我にもブラック企業にも負けない体を手に入れるんだから、どんどん体は軽くなったように感じるはずだよ」
「神様のくせにブラック企業とか知ってるんだ」
汗ばんだ体がくっついたまま、そんな軽口を叩いている状況は明らかに変だ。それなのに、飛び降りた途端に処女を奪われた俺は、なぜか既にこの状況を受け入れつつあった。
「知ってるよ、神様だもん。末席だけどね。さ、そんなこと言える元気があるなら……次は、もっとたくさん攻めちゃおうかなー」
「えっ? ゆ、ゆっくりするんじゃなかった? 俺、さっき処女喪失したばっかなのに、そんないろいろされちゃ……」
怯える俺は、少しだけ前へと進み、挿入深度を下げようとしてみた。本当に初めてなのに、かなり奥まで挿入られている。正直、ずっと奥の方がソワソワしていて、気が気じゃ無い状態が続いていた。
「薫次さ、着地点は気を失うくらい気持ちがいいんだよ。そこに辿り着くまでをゆっくりやるだけだよ。さっきわかったでしょ? その気持ちよさと比例して痛みを感じてるよね? ちゃんと気持ちよくなれるようにしてないと、最後は痛みで気絶しちゃうよ? そんなの嫌でしょ?」
「え? それは……確かに、嫌……かも」
そわそわする部分をじっと止めることが出来なくて、腰が少し動いていた。ハクトはそれを見ると満足そうに笑い、ぐいっと高まった熱で俺を抉った。
「ああっ、ちょっと!」
「はい、次始めまーす」
楽しそうにそう告げると、その言葉にそぐわない程の激しさで、俺に腰をぶつけ始めた。骨と肉とがぶつかる時にだけなる、あのバチンバチンという音が、早朝の草原に響いては吸い込まれて消えていく。
「あっ! あああ! ちょ、だめ、だめ! やだ!」
口ではそう言いながらも、信じられないくらいに滑らかに俺の体を出入りするハクトを感じて、もう体は熱を帯び始めていた。うつ伏せで穿たれ、抉られ、擦り上げられている場所は、際限なく快楽を生み出し続けた。
そして、ハクトが言う通りに、それと同じくらいの痛みが時折襲って来ていた。それは多分、ずっと続いているものなのに、気持ちいいという感覚が隠してくれているのだろう。途切れた時にだけ、ズキンと激しい痛みに襲われ、思わず唇を噛んだ。
「んあ、い……た」
「……大丈夫? 心配しなくていいよ、もう少しで多分気持ちよさしかわからなくなるから。最高の麻酔薬が生まれ出るまで、あと……一回イクだけ!」
そういうと、俺の体を掴んだままゴロンと転がり、仰向けにさせた。仰向けになった俺の下に、ハクトが寝ている。繋がったまま上を向かされた俺は、まるで空に投げ出されているような感覚になった。
「あ、これちょっと怖い……あ、あ! ハクト、待って! だめ!」
目の前に広がったブルーグレーの空と輝く星たちに見惚れていると、体が落ちないようにと脚を絡み付けたハクトが、自由になった両手で胸や聳り勃った部分に伸びていった。
両足で絡め取られた体は引き寄せられ、そのまま何度も律動される。ほんの少しの逃げ道もなくて、胸の粒を捏ねられ、中心を攻められ、思わず涙を流した。
「あああ! やだ、やめろ! 体っ、壊れる……」
泣き叫びながらも抵抗する気は起きず、ただ与えられるものを受け入れ続けた。ふと見ると、俺の体は真っ赤になっていて、絡められた足の部分だけが白く抜けていた。
「んっ、ん、んんん……も、だめ……あああああっ!」
ガクンと大きく跳ねた体に続いて、キラキラと輝く空に白い軌跡が見えた。
「よーし、オッケーイ。すごい飛んだね。薫次、えっちだなあ。じゃあ、次はー……」
「え、ちょ、ちょっと、ま、待って! し、心臓破れそうだって……ば!」
全身真っ赤になった俺は、ゼーゼーと肩で息をしていた。吸っても吸っても足りないほどに、目まぐるしく駆け回る血液が酸素を要求している。
「飛び降りてたくせに、心臓守りたいの? 変なのー」
ハクトから意味がわからないとばかりに笑い飛ばされ、ほんの少しだけ頭に来た俺は、渾身の力を込めた体を起こした。そして、向かい合わせになるように体を回転させる。繋がったまま、ドスンとハクトの上に座った。
「ふっ……う、ン」
少しは反撃してやろうとしてこの体勢になったのだけれど、予想してはいたものの奥まで重力で容赦ない刺激が加わってしまった。こうなると、ハクトも自由が効かない。
どんな顔をしているんだろうと思ってチラリとその顔を覗くと、欲情し切って神様らしさがドロドロに溶けてなくなった、ただ飢えていて、必死に獲物を求める雄の顔がそこにあった。
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