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第4話 どうだった?

「神様のくせに欲塗れな顔してる」  そう言って俺が笑うと、ハクトは「えーなんか余裕あるね。ちょっと意地悪しちゃおうかなー」と言った。それを聞いて、俺がしまったと思った頃には、もう手遅れだった。  中に入ったままの熱の塊が、一気に膨らむ。ググッと怖いくらいの圧迫感がやってきた。体が危険を感じて、それを訴えてくる。 「うあっ……ハクト、ごめん、ごめんなさい。くるしっ……」 「だーめ。お仕置きでーす。本当はそこまでする必要ないんだけどー……んっ、よし、いけそうだね。はーい、覚悟して……ねっ」  そう言ってハクトはもう一歩前へと進みながら、俺を自分の方へと引き寄せた。すると、ぐぽっという聞いたことのない音が、体の中から響いた。それと同時に、俺は体のコントロールを失ってしまった。痙攣と同時に、耐え難いほどの快楽の波に襲われる。 「っ……あ、ふ、ぐぅ……」  息をすることに必死で、それ以外はもう全てを諦めたように、ただ怖いくらいの気持ちよさに流されるしかなかった。 「ああ! んっ……っうううあああ!」  最後の一滴とでも言えそうなほどの、なけなしの白い雫がこぼれ落ちた。その雫と引き換えのように体が一瞬だけ激しい痛みに襲われた。 「うあっ!」  痛みの後には、焼かれるような熱が走り抜けていった。その苦しみと痛みは、ほんの刹那ではあったけれども、狂いそうなほどの快楽を打ち消すほどには威力があった。  やたらに星が綺麗だなと思っていたら、俺は泣いていた。朝の消え入りそうな星の光さえ、エネルギーに満ちていると見間違えるほどに、目にはたくさんの涙が溜まっていた。 ——痛くて泣いてるわけじゃないな。それよりも、嬉しいかも。  空が白みかけてきた。草原の一端の土と葉が日の光を受けて優しい香りを漂わせ始めた。それでもまだ、おれはただ必死にハクトにしがみついて喘ぎ続けていた。 「あ、あっ、あっ! も……もお、しぬ……」 「そうそう、薫次(くんじ)は死んだよ。あの体は一度死にました。おめでとう」 「へあ?」  ハクトの言っている言葉の意味がわからずに聞き返そうとするけれど、うまく頭が回らなくなっている。まだ続いている快楽地獄を堪えることしか出来ない。  病気で苦しんで死ぬのは嫌だったけれど、気持ち良すぎて死んだなんて、ちょっと笑うこともできないじゃ無いかと、思わず自分へ突っ込みたくなるという思いだけはあった。 「よーし、これでオッケーだよ。……まだ気持ちいいの? ふふ、良かった。気持ち良さが痛みに勝ったんだね」  ハクトは子供のように無邪気に笑い、涙と涎と汗でベタベタになったおれの顔を手で拭ってくれた。ただその間も動き続けているから、もう体が本当にバラバラになりそうで……と思っていると、突然驚くべき変化に襲われることになる。 「ひいっ!」  それはバーンという、強烈な爆発音だった。なんと、意識だけを残して、俺の体がバラバラに砕け散ってしまったのだ。  ガラス窓が砕けてそのまま時が止まってしまったかのように、粉々になった体は空中で時が止まっているような状態になって浮いていた。  どういうことなのかは全く分からないけれど、こんな風になっても精神に影響はないらしく、意識は何も変わらないままにいつもの俺だった。それが余計に恐ろしかった。 「わあああああ! なに、なんでっ?」  慌てるオレを見ながら、反対にハクトはニコニコと満足そうに笑っている。 「よしよし、じゃあ薫次の体はこれで入れ替わり終了ー」  そう言って、パチンと指を鳴らした。  すると、空中に浮いていたカケラたちは、思い思いに変化しながら再び俺を象り始めた。  それは、さまざまな色に変化しながら、くるくると回転しながら、色んな変化を引き起こしながらも一箇所に集まっていく。スノードームのように自由な動きをしながら、その輪郭だけは間違わないようにと、きちんと俺の姿へと戻っていった。  そうして出来上がった体は、気がつくとすっかり元に戻っていて、洋服も全てきちんと戻っていた。 「すごい。体……今ので入れ替わったってこと華? 神様って便利でいいな」  思わずそう呟くと、「お、そう思う? それなら死んで俺と来てくれてもいいよ? ずっといい思いできるかもね」とハクトは俺を抱き寄せた。 「で、でもせっかく体が変わったなら……」  そう言って、気がついた。確かに体は変わっている。健康とはこれほどに素晴らしいことなのかと叫びたくなるほどに、体が軽かった。 「これ……ハクトとえ、え……っちしたから? めちゃくちゃ体が軽いんだけど……」 「そうだよ。その分痛みもあったはずなんだけど、薫次の思いが強かったんだろうね」 「思い?」 「うん。体さえ健康だったら、もっと頑張れるって思ってたんでしょう? その思いが本当に心からの願いだったから、楽に叶ったんだと思うよ。良かったね」  ハクトはそう言って、地平線の向こうまで明るくなるんじゃないかと思うような、全てを良くしてくれるような気にさせられる笑顔で俺を見た。

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