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06.〈挿話〉高校一年生の卒業式(蒼人視点)②

 下を向きもじもじとする姿は少し可愛いかもなんて思ってしまったが、その気がないのに思わせぶりなことはしたくない。 「気持ちは嬉しいんですけど……ごめんなさい。俺には心に決めた人がいるから、その人に勘違いされるような事はしたくないんです」  例え、俺の気持ちにまだ気付いてもらえてなくても……と、心の中で言葉を付け加えた。  ハッキリと断ることになってしまうけど、声をかけるのはとても勇気が必要だったと思う。それを思うと、少しでも傷が浅く済むようにと、なるべく優しい声で返事を返した。 「そう……なんだね。正直な気持ちを教えてくれてありがとう」  ペコッと大きくお辞儀をすると、「これ、素敵な花束なので受け取って!」と、まるで泣きそうな顔を隠すかのようにグイッと花束を押し付けると、そのまま身を翻して来た方向に走って行ってしまった。  あの人に、新しい出会いがありますようにと願いながら、走りゆく背中を見送った。 「あれ? 蒼人(あおと)、その花束どうした?」  先輩が去ったあとしばらくその場に立ち尽くしていたが、俺を呼ぶ声がして振り返った。  ……目の前には、俺と同じように花束を抱えた麻琴が立っていた。 「卒業生の先輩に、連絡先聞かれたんだよ……、断ったけど。……お前こそ、それは」  この花束を見てヤキモチ……なんていう期待するような展開にはならないだろうけど、隠し事はしたくないので正直に話をした。  それと同時に、まさか麻琴もか? との考えが浮かび、無意識に怪訝そうな表情になってしまったらしい。そんな俺を見て麻琴も少しムッとした顔を見せた。 「アルファの先輩に告白されたんだよ。おれにもモテ期来たのかな」  そう言いながら花の香りをくんくんっと嗅ぐと、良い香りだーっと顔を緩ませた。 「なんて……答えた?」 「気になる?」  花束の横からちょこんと顔を出し、ニヤッと笑う。  気にならないわけ無いだろ! って、ハッキリ口に出せたならどんなに良かっただろうか。  でも今の俺達の関係は、幼馴染だったり兄弟みたいなもんだったり……と、どう考えても色気のあるものではない。 「そりゃ……まぁ、な」  歯切れの悪い俺の様子を見て、麻琴はケラケラと声をたてて笑い始めた。 「ごめんなさい、まだそういうの考えられなくて……って、断ったよ! ……ふふ、安心した?」

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