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06.〈挿話〉高校一年生の卒業式(蒼人視点)③
麻琴の言葉に、え? と俺は驚きの声を小さく漏らした。
だって、その言い方だと俺の気持ちに気付いているみたいじゃないか。
「麻琴……俺は……」
こんなタイミングでとは思ったが、このチャンスを逃すまいと急いで口を開いたのに、その声にかぶせるように、
「おれに彼氏が出来ちゃったら、お前一人で寂しくなるだろ?」
……と、笑いながら言った。
俺の心のザワつきなど全く気がついていない様子を見て、それ以上の言葉を続けても無駄だと気付くと、本日何度目かのため息をついた。
後で友達が話しているのを聞いて知ったのは、卒業式に意中の人へこの花束を渡して告白するというのは、この学校の恒例行事らしい。
OKしたとしても断ったとしても、相手への配慮ということもあり、花束を受け取るまでがセットのようだ。
ただ、このイベントのせいで、恋人同士の関係がギクシャクしてしまった例もあるらしい。まぁ、確かに、その気がないのに受け取るなって思うよな……。
そうは言っても花束に罪はないし、受け取ってしまったものを捨てるわけにもいかない。結構目立つ状態で花束を家に持ち帰ると、両親が驚いた様子でこちらを見た。
「いつも二人一緒にいるのに、告白してくる子なんているんだな」
俺の両親はアルファとオメガの夫夫で、うちの学校の卒業生だ。
なので両親に尋ねてみると、もちろん卒業式恒例のイベントは知っていた。
それでも、俺と麻琴はいつも一緒にいるから、まさか告白してくる人がいるとは思わなかったらしい。
母が不思議そうに言うけど、麻琴が俺の事を意識していないのだから仕方がないさ、とは言えず「先に風呂入るわ」と、それだけ伝えると自室のあるニ階へと駆け上がって行った。
親にもクラスメイトにも俺の気持ちなんてダダ漏れなのに、肝心の本人には全く伝わってないのは如何したものか。
そろそろ行動をおこさないといけない時期がやってきたかなと、夕焼けで赤く染まる空を眺めながら、心新たに決意を固めるのだった。
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