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07. 崩れた日常と新しい友達 ②
平穏な日常が崩れた日。おれは一人自分の席に座っていた。いつも背中に感じていた温もりが、今はない。産まれた時から当たり前のように側にいた存在がいなくて、胸がチクリと痛む。冷たい椅子の感覚がその痛みを増幅させているようだった。
兄弟同然に思っているのだから、離れたら寂しくなるのは普通だろう?
誰に言われたわけでもないのに、心の中に言い訳じみた言葉が浮かんできて、理由もわからずひとり首を傾げた。
二人きりだった世界に太陽が加わり、今度は三人で過ごすようになっても、おれ達の関係は大きく変わることはなかった。
太陽と仲良くなったことがきっかけで、前より話せる人は増えたけど、あくまでもクラスメイトとして接する友達だ。特に仲良くしてきた友達はいない。
だから蒼人が学校へ来なくなってから、しばらくは太陽と二人きりで過ごしていた。
「由比 くん、ちょっと良いかな?」
最近は太陽と登校したあと、太陽は委員会の仕事があるからと別れ、おれは自分の教室で一人窓の外をボーッと眺めていることが多かった。本当におれって友達いないんだなーって改めて実感する。
そんなぼっちのおれに、控えめな声がかけられた。
声のする方へと顔を向けると、そこに立っていたのは、小柄でゆるふわカールの可愛らしい人だった。儚げで守ってあげたいという庇護欲が湧き出るような、いかにもオメガという感じの人物だ。
「ん? なに?」
名前なんだったかな……と、頭の中で意識を張り巡らせた。話したことがないとはいえ、オメガクラスは人数が少ないから、顔と名前くらいは──。
「いきなりごめんなさい。僕、飯田月歌 です。お話するの、初めてだよね」
おれが無言で考え込んでいる間に、先に自己紹介をしてくれた。ああそうだった、飯田くんだ。
「ずっとお話してみたいと思ってたんだけど、近くに森島 くんがいて話し掛けづらかったんだ。……あ、この事、森島くんには内緒ね」
えへへ……と、人差し指を口元に持っていってニコッとウインクをした。
オメガにとって、アルファは近寄り辛い存在だ。今は差別的な態度は減ったとはいえ、未だにオメガを下に見るものは多いし、アルファが社会のトップに君臨していることには変わりがない。だから自然とオメガはオメガ同士でつるむことが多くなっていた。
「森島くんがお休みして、由比くんが一人でいることが多くて気になっていたんだ。同じオメガだし、仲良くなれたら嬉しいなと思って……」
上目遣いで少し遠慮がちに言ってきた飯田くんを見て、可愛いオメガの上目遣いって、同性にも効果があるんだなぁ……なんて、見当違いなことを考えていた。
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