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16. あの日のこと(蒼人視点)②

 ────っ!  麻琴の狂わしいほどに魅力的なフェロモンを大量に浴び、一気に目眩がしてくる。  マズイ。このままでは、俺自身の自我を失ってしまうと、自らの腕を噛み、理性を保とうとただ必死に抗い続けた。    目の前のオメガを自分のモノにしろ、──そう脳内に響き渡る甘い囁き。  無意識に俺を求め続けているんだ。何も間違っていない。合意の上だ。  いや、俺は麻琴を大切にしたいんだ。こんなの間違っている。  順番を間違ってしまうけど、いつかは麻琴を……そう思っているんだから、良いじゃないか。  良いわけない。ちゃんと告白して付き合って、大事に愛を育てていきたいんだ。  どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。30分か。いや、たった1分の出来事だったのかもしれない。  時間の感覚もわからなくなるまで抗い続けて、……でも、理性と本能のせめぎ合いに負けそうになった時──。 「麻琴っ! 蒼人っ!」  激しくドアを開ける音と、俺達の名前を叫ぶ声が聞こえた。  意識が飛びそうになりながらもドアの方を見ると、必死な顔をして部屋に踏み込んできたのは、麻琴のピンチを教えてくれた太陽だった。  部屋に飛び込んできた太陽は、俺の様子を見て驚いた顔をしていた。  麻琴を抱きしめ、自分の腕を噛みながら必死に理性を保とうとしていた俺は、すごい形相だったんだと思う。  それでも、俺達に近付いて、麻琴を引き受けようとした。    「──っ!」  けれど。太陽は伸ばした手をビクッと震わせ動きを止めた。  俺は、麻琴を誰にも奪われたくないと、助けに来てくれた太陽でさえ威嚇したんだ。  そこからの記憶は、俺も途切れてしまって覚えていない。    あとから太陽に聞いた話によると、ちょうど到着した救急隊員と一緒になって、俺達を引き離したらしい。  『ベータの俺でさえ圧倒されてしまうくらいの、アルファの威圧を放っていて大変だったよ』そう苦笑いをしながら話してくれた。  やっと引き離したものの、麻琴の側から離れようとしなかった俺に、一時的な麻酔効果のある注射を打って、一緒に病院へと搬送したそうだ。  ラット状態になっていた俺だけど麻琴より先に目が覚め、もう落ち着いたのを確認されてから、同室で麻琴の側にいる許可が降りた。  麻琴が目覚めるのを待つ間、俺はあちこちへと連絡していた。    太陽に報告してもらっていた麻琴の様子と、俺自身の周りでの動きと、いくつか気になることがあった。  今回の喫茶店での事件との関わりはわからないけど、どうしても引っかかる。  休学中の俺が大きく動くことは出来ないので、協力を得ながら調べていくことにした。  結局その後麻琴はすぐに目覚めず、入院から二日目の月曜日に、やっと目を覚ました。

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