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17. これからのことと見舞客 ①
病室で蒼人 からあの日の詳しい状況を聞いた後、一緒にいた佐久 くんはどうしたのかと尋ねた。
ずっと気になっていたけど、自分のことで精一杯で、すっかり聞くタイミングを逃していた。
佐久くんはおれをホテルまで届けた後に太陽 へ連絡を入れて、その場を離れたらしい。佐久くんもアルファなので、なにか間違いが起きてしまったら傷つけてしまうと考えたそうだ。
やっぱり、佐久くんって紳士だよなぁ……なんて考えていたら、なぜか隣から感じる視線が痛い。あれ? 心の声が口に出ちゃってたのかな。
「あの日の麻琴くんのフェロモンは異常値を示していたのに、蒼人くんはよく耐え抜いたと思うよ。連絡をしたあとその場を離れたそのお友達の選択も、正解だったね」
春岡 先生は、アルファ達へねぎらいの言葉をかけた。
一般的には、フェロモンを放出してしまったオメガが悪いとされることが多く、アルファはそれを免罪符とする者も多い。それを利用して、オメガを襲う卑劣な輩もいるのだ。
あの日おれのフェロモンに理性を失いそうになった蒼人は、自分の腕を噛んで耐え続けたと聞いた。
おれが目を覚ました時、腕の包帯に気付いて問い質したら、火傷をしたなんて嘘を付いた。きっと包帯の下は噛み跡で痛々しいことになっているのだろう。
おれを守ろうとしてくれたその行動に、胸が熱くなった。
あんな場所でヒートを起こしてしまったから、名も知らないやつに襲われたかもしれないし、理性を失った友達と……なんて可能性もあったかもしれない。
そんな最悪の状態も考えられた中で、蒼人も佐久くんも最善の行動を取ってくれた。……感謝しかない。
でも……。ここでやっと、大事なことを思い出した。
佐久くんは喫茶店で『森島くんが内密に婚約をしたという噂を聞いたんだ』そう言っていた。
確定ではないけれど、蒼人の『婚約者』が存在するかもしれないのだ。……いや、おそらく本当なんだと思う。そうじゃなければ、急に理由も言わずに休学するなんてありえない。
──家族、兄弟同然のおれにさえ、言えないこと……。
そこまで考えて、思考がピタリと止まる。
自分で散々兄弟みたいな存在だって言っておきながら、その言葉が今はずしりと心にのしかかって来た。
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