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22. 二人での食事 ①
しばらく海岸沿いを走ったところで、車は停まった。
「ここで降りて、少し歩くよ」
紅音 さんの言葉を聞くと、蒼人 は握った手はそのままで、反対の手を使ってシートベルトを外し、エスコートするように車を降りた。
その様子を、紅音さんはニコニコしながら見ている。おれにとっても親同然の紅音さんの前で、めちゃくちゃ恥ずかしい。
でも、思い返してみると、おれ達はずっとこんな感じだった。
親たちが話すには、産まれたばかりの二人を横に並べて寝かせたら、蒼人が俺の手をぎゅっと握ったらしい。
まだ産まれて数日の赤子だから、把握反射というものだろう。それでも、おれを守ろうとする気持ちの現われだったんじゃないかって、盛り上がって話をしていた。
それから、気付くと蒼人はおれの側にいたらしい。小さい頃から、何か変化が有ると、親よりも先に気付くほどだったという。
それが顕著に現れてきたのは、幼稚園に入園してからだった。
同じくらいの歳の子が通う幼稚園内で、ちょっかいを出す子は少なからずいるだろう。蒼人はおれに気付かれないように、そういう子からうまく遠ざけたらしい。
そして小学校入学前健康診断で、おれはオメガで蒼人はアルファと診断された。
さらに蒼人の過保護っぷりは加速するのだけど、このあたりになると、おれの記憶もだいぶはっきりしているので、色々と覚えている。
その頃には、蒼人の膝に乗るのも、もうすでに当たり前になっていたように思う。
当時のおれ、……いや、ついこの間までずっとだけど。なんで疑問に思わなかったんだろう?
ふと、春岡 先生の『麻琴 くん自身も、蒼人くんを自分のアルファだと認識していた』という言葉を思い出した。
ぽぽぽっと顔が熱くなる。
無意識とはいえ、おれ達はお互いを特別な存在だと認識していた。
だから、蒼人のそばにいると安心したし、居心地が良かったんだ。
かといって、結婚相手や番になれるとは限らない。
このまま、ずっと隣りにいるもんだと思っていたのになぁ……。
急に思い出した現実に、さっきまで熱かった顔の火照りも、あっという間に消えていった。
勝手に自分で心の棘を増やしてしまい、悶々としながら歩いていると、前を歩いていた紅音さんが立ち止まった。
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