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23. 待っていてほしい ②

 電話の向こうの蒼人には見えないけど、おれは理由がわからず首を傾げた。 『そっか。それならいい』  安堵の声が聞こえてきたけど、ますます訳が分からない。なんで自分ひとりで納得してんだよ。  あの事件の後から、蒼人が……いや、家族もみんなそうなんだけど、特に蒼人の過保護に拍車がかかっている。  確かに心配をかけたなとは思うし、家族同然の幼馴染だから、過剰な心配だっておかしくないのかも知れない。  それでもやっぱり、相手のいる人に世話を焼かせるのは気が引ける。 「あのさぁ……。あんな事があったから、お前が心配してくれる気持ちはわかる。けど、ほら、休学してまでやらなきゃいけないことがあるんだろ? おれの世話を焼いてる場合じゃないだろう?」  婚約者が出来たという噂を聞いたなんて言えないし、少し曖昧な言い方だけど、これ以上おれにかまけてる場合じゃないんだと言い聞かせる。 『なんでそんな事言うんだよ』  電話の向こうから聞こえてくる声は、明らかに不機嫌だった。そりゃそうだよな。心配をしている相手に、もう構うなって言われてるんだから。 「おれには家族もいるし、紅音さんだって気にかけてくれるし、太陽だって登下校一緒だったりと世話になってるし。……だからさ、大丈夫なんだって」  どうにかして蒼人を納得させたかったけど、話をすればするほど、蒼人の機嫌が悪くなっていくのが伝わってきた。 『……迷惑、なのか?』 「いや、そうじゃなくて……」 『……ごめんな……』 「だから! 迷惑とかそんなこと──」  おれが言い終わらないうちに、プツリと通話が途切れた。  あんな蒼人の声、聞いたことがない。『ごめんな』そう言った声がいつまでも耳に残る。  もう少し、ちゃんと話をして、蒼人が傷つかないように少しずつ距離を置くつもりだったのに、余計なことを言ってしまった。  ただ、おれは大丈夫だからって伝えたかっただけなのに。  蒼人に、心配をかけたくなかっただけなのに。  日常が崩れたあの日から、どんどん歯車が狂っていく。  当たり前だと思っていた未来なんて、幻だったんだ。  スマートフォンを握りしめながら、しばらく放心状態のままその場から動けずにいた。  しばらくして、頬に何かが伝うのを感じて、はたと我に返る。手の甲で拭うと、自分が涙を流していることに気が付いた。 「ほんと、なにやってんだろな……」  蒼人への恋心を自覚したと同時に失恋。それなのに、今まで通りに接してくる『幼馴染』  知らない振りをしていれば、いずれやってくるXデー。なのになんで、自分から遠ざけるようなこと言っちゃったんだろう……。  近くにあったタオルを手に取り顔を覆う。気持ちも行動もすべてがチグハグな自分に嫌気がさして、人知れず声を押し殺し、しばらく泣き続けた……。

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