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29. 治験について ②

「大丈夫! ……俺は、知らないやつのところには行かないし、麻琴(まこと)を他のやつの元へ行かせるわけがない!」  蒼人の大丈夫という言葉にも、黙ってしまったおれを心配そうに見ながらも、話を続けた。 「治験に参加しているアルファは、番がいたり、番いたいと思っている相手がいる人も多いんだ。それも考慮され、始めは偽フェロモンから始めて、最終的には自分のパートナーと治験をする人が多いんだ」 「パートナーと?」 「そうしないと、募集してもなかなか集まらなかったそうなんだ。健康的で問題のない、条件に合うアルファが」 「ちゃんとパートナーがいて、他の人のフェロモンで行う治験に難色を示すのなら、なんでそんな治験に参加なんて……」 「守りたいんだよ、自分のオメガを。……そして、オメガが安心して暮らせる世の中にしたいと願っている。だから俺も、参加することに決めた。──麻琴を守るために、そばを離れた結果がこれだけどな。……本当に不甲斐ない」  最後の言葉は、おれに向かって話すと言うよりも、天を仰いで、どこか自分を責めるかのようにつぶやいた。  蒼人からの話を聞いたあと再び施設内へ戻り、これからの話をした。  この施設内には寮があり、おれと蒼人は卒業までそこで生活することになった。  両親には、施設の方からうまい具合に説明してくれてあるらしい。  なんか全てが都合よく動いてるなぁとは思うけど、国をあげての極秘プロジェクトだから、優遇されているようだった。  ピンポーン  夕方陽も傾きかける頃、家のチャイムが鳴った。 「よぉ、体調はどうだ?」  玄関を開けると、大きめの荷物を持った太陽が立っていた。 「うん、通院はもう少し行かなきゃだけど、それ以外はもう普通。心配かけて悪かったな」  そう答えながら荷物を受け取って、太陽を家の中へ招き入れた。  昨日治験施設から帰ってすぐ太陽へ連絡し、学校にある私物を持ってくるようにお願いした。  もう三年生で授業もないし、あんな事があったあとだから正直学校へ行き辛い。  あの二人も同じように学校に来ていないらしいから、鉢合わせせずに済む……そうは思うけど、やはり行きたいという気持ちにはなれなかった。 「これで全部だと思うけど……」 「うん、ありがとう。このまま卒業まで学校へ行かないと思うから、助かる」 「そっか……。卒業式はどうするんだ?」 「うーん。まだわかんないけど……」  そう言って黙ってしまったおれを見て、太陽はそれ以上尋ねることはしなかった。

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