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29. 治験について ③
「あのさ。……色々とありがとな。蒼人から聞いた」
「まぁ、友達の頼みだしな?」
蒼人が休学する前に、おれに言ったのと同じく、詳しい事情は話せないけどと前置きしたうえで、太陽におれのことを頼んだと言っていた。
一つも不審がらないなんてことはなかったのだろうけど、蒼人を信頼しておれを見守っていてくれたらしい。
そのおかげで、ギリギリピンチを回避できたんだと思う。
本当に、最悪の事態にならなくてよかった……。
「色々あったけどさ、しばらくはゆっくりするといいよ」
太陽には、立て続けに色々とありすぎたから、人里離れた別荘地でゆっくり療養すると伝えてある。
すべてが終わって、話せる時が来たらちゃんと全部話す。それまでは、隠し事が続いてしまうけど、ごめんな、太陽。
事件のこととか学校でのこととか、大体は蒼人から聞いているので、おれから聞こうとしなかったし、太陽もこれ以上踏み込んだ話をしようとしなかった。
普通に友達としての雑談を少ししたあと、太陽はそろそろ帰ると言って立ち上がった。
「最後に一つだけ聞きたいんだけどさ……」
玄関に向かおうとしていた足を止め、くるりとこちらに向き直って言った。
「……で。お前ら、付き合ってんの?」
太陽に初めて会った時に言われた不躾な質問を、あのときと同じような口調で尋ねてきた。
ははっ。懐かしい。
ここ立て続けに色々あって沈みがちになっている心を、太陽なりに励まそうとしてくれたのだと分かる。
おれは笑いを抑え、平然を装う。そして、あの日と同じように答えた。
「んー? 別につきあってないし」
その答えに、「おい、まじかよ」って小さく呟く声が聞こえたから、おれはニッコリと笑う。
「おれ達、兄弟みたいなもんなんだから」
ニヤリと笑うおれに、太陽は容赦なく吹き出した。
「相変わらず、不憫なやつだな、あいつは!」
はははは! ……と大きな声で笑うと、じゃあまたな〜と手をヒラヒラさせながら帰っていった。
全てが落ち着いたら、太陽やみんなにも伝えよう。
どんな反応をするだろうか。驚くのか、やっとかーって思うのか。
でもきっと、みんな喜んでくれるはずだ。
早くその日が来るといいな……と、喜ぶみんなの笑顔を思い描いて、おれは小さく笑みをこぼした。
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