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30. 快適な治験施設 ①
治験のために入った寮は、ハッキリ言ってとても快適だった。
外に出なくても、たいていのことは敷地内で済ませられる。
オメガを守ることを主な目的としている治験施設のため、オメガが快適に過ごせるようにしているのだと言う。
「ただいまー」
発情期以外のオメガは、朝の専門医の診察や色々測定したあとは、自由時間になる。
勉強したり、仕事をしたり、趣味に時間を費やしたり、各自好きに時間を使っている。
おれは……というと、蒼人 が治験のために早朝から出かけてしまったので、テレビで特集をしていたプリンを食べたくなり、思い立って買い物へ行ってきた。
以前と違って、ここで生活をしていると、思い立ってそのまま出かけられるのが嬉しい。
テレビで見たものと同じものではないけれど、おすすめされたものを買ってきた。
手にした袋の中のプリンをちらりと見る。本当は手作りのプリンを蒼人に食べさせてやりたいんだけど、残念なことにおれは料理が得意ではない。
以前、テレビで紹介されていたオムレツを見て、蒼人が美味しそうと言ったから、作ってやろうと挑戦したんだ。でも結果は惨敗。蒼人に泣きついて、作り直してもらったことがある。
あのオムレツリベンジはまだ出来ていないけど、諦めたわけではない。いつか蒼人にちゃんと手料理を食べさせてあげたいと思っているんだ。
「おかえり」
お皿を出してプリンを乗せていると、蒼人が髪の毛を拭きながらシャワー室から出てきた。
「ああ、帰ってたんだな。プリン買ってきたから、食べよう」
ちょっと豪華に見えるように、生クリームとフルーツ缶を乗せてみた。最後に、猫のクッキーをちょこんと乗せて完成だ。うん、可愛いな。
向かい合ってテーブルへ座る。
いつもなら、蒼人の膝の上が定位置なんだけど、治験から戻ったばかりの時は、蒼人はおれをあまり近づけたがらない。
偽フェロモンとは言え、オメガのフェロモンが少しでも残っているかと思うと嫌なんだそうだ。
治験から戻るとまっさきにシャワーを浴び、念入りに身体中を洗う。その上、おれを少し遠ざける。
そこまでするなら、治験なんか参加しなきゃ良かったのにって、今でも思うけど、おれを守りたいという理由だと説明されたから、それ以上何も言えるわけがない。
こんなタイミングで休学したのが、まさかおれの為だとは思わなくて、理由を知った時は、本当に大切にされているんだなぁって思えて嬉しかった。
両思いなんだと確認し合えたけど、……ん? おれ達は、付き合っているのか? 恋人同士なのか?
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