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30. 快適な治験施設 ②

 ふと浮かんだ疑問に、頭を捻る。  正直、おれ達の関係は今までと殆ど変わらない。  振り返ると、おれが無自覚に『兄弟みたいなもん』と言ってた頃も距離感バグっていたから、恋人としての距離感ってなんだ? なにか変わるのか? ……そんなふうに考えてしまった。  改めておれ達の今の関係を言葉にするならば何だろう? 確認してみたいけれど、まだなんかむず痒くて、聞こうにも聞けそうにない。  でもまだ治験もあるし、あの二人のこともあるし、卒業するまではまだこの距離感のままでも良いかなーと、ひとまず保留にしておくことにした。    お祝いムード溢れた年末年始も終わり、すっかりと日常が戻ってきた1月の半ば。  外は数日前に積もった雪がやっと解け、地面は滑りそうな状態となっていた。    『滑る』なんて、受験生にとってはなんとも縁起の悪い言葉だが、たしか今日辺りに大切な試験があるはずだ。足場の悪い中で、会場に向かう学生も多いことだろう。  治験に参加している学生の中でも、テストを受ける者がいるが、特例として、施設内で受けられるようになっているらしい。  おれと蒼人はこの試験は受けない。おれ達の考えている進路に、今回の試験は必要がないと判断したためだった。  仲間が良い結果を出せますようにと、心の中で祈った。    「麻琴(まこと)、今日は外に出かけないほうがいい」  朝起きて、開口一番蒼人が言った。  いよいよか。  おれよりも、よっぽどおれのことを分かっている蒼人のひとことに、「うん」……と頷いて返事をした。  この治験施設に来てから、毎日の診察と治験のための色々なデータを記録している。オメガフェロモンの数値もその中のひとつで、一週間ほど前から変化があり、昨日は明らかな増加を示していた。  医師からも普段より注意深く体調観察をするようにと言われていたが、朝起きてから身体が普段より熱い自覚はあった。  蒼人は、治験のために毎日抵抗薬を服用しているけど、フェロモンの香りを全く感じなくなるわけではない。だから、おれのフェロモンの変化をしっかりと感じ取ったのだろう。  まぁ、おれたちは『運命の番』だからな。普通の人のフェロモンは感じ辛くなっても、おれのフェロモンはバッチリだろう。  自分の心の声に対して、フフンっと、自慢げに鼻を鳴らす……と同時に、ニヤニヤと顔がだらしなく崩れるのを感じていた。  その様子を少し離れた位置で、ニコニコと嬉しそうに見つめる蒼人には気付かず、しばらくドヤったりニヤけたり、一人百面相をしていた。 「先に朝食を済ませようか」

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