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31. 巣作りと約束 ①
予想通り、あのあとすぐに本当のヒートがやってきた。
初めの頃は完全に記憶が飛んでいるけど、後半になるとだいぶ治まってきたので、ちょいちょい記憶がある。
いずれは、蒼人との関係は……って考えれば、不自然なことでもないし恥ずかしがることでもない。
わかってはいるけど、完全にヒートが治まった今、思い返してしまうと一気に顔が熱くなる。
……でも、めちゃくちゃ、幸せだったなぁ……
ところどころ記憶は残っているから、幸せに満ちた感覚を思い出せるし、まだ心が身体がふわふわしている。
本来の目的の治験の結果はどうだったんだろう?って、少し脳裏をよぎったけど、正直今のおれは『そんなことは置いといて』って気分だ。
結論から言うと、おれのうなじはキレイなままだ。身体の違和感も全く無い。
運命の番相手にでも、自分を抑えられたのだと思う。
それは抵抗薬の効果と、蒼人の意志の強さの勝利とも言えるのかもしれない。
他の治験者の結果も踏まえて、落ち着いた頃に教えてもらえると思うけど、今しばらくは他の事は考えずに、このふわふわした多幸感に包まれたままでいたい。
ヒート中に不安にならないようにと、蒼人は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
治験の数値測定に行く為に僅かに離れる時は、蒼人の匂いのするものをたくさん置いていってくれた。
おれは嬉しくなって、ベッドの中心に蒼人の服をどんどん並べてみた。蒼人が戻ってくるまでという短い時間だったから、簡単なものしか出来なかったけど、蒼人はすごく喜んでくれたんだ。
思い返せば、病院で蒼人の服を握りしめて寝たのは、あれも同じなんだろう。好きな相手の匂いのするものを集めて囲まれたくなる習性。オメガ特有のネスティング、いわゆる巣作りという行為だ。
そして今も、巣の中に一緒にいる。
昨日の夜は意識もはっきりしていたし、数値を見てもヒートの終わりで間違いなかった。
なので、意識のはっきりしている中でゆっくりと巣作りをして、蒼人に入ってもらいたかった。
出来上がった巣は満足のいくもので、蒼人もたくさん褒めてくれた。
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