92 / 127
番外編 オムレツ(蒼人視点)①
キッチンの方から、どう繕って表現をしようにも、「焦げ臭い」としか言えない匂いが漂ってくる。
麻琴 が俺を追い出して、鼻歌を歌いながらキッチンを占領したのが、30分ほど前。
『なにするんだ?』って聞いても、『いいからいいから~~♫』と嬉しそうに返してくるだけ。
俺はどう考えても嫌な予感しかしなかったが、麻琴の意思を尊重すると決めているので、言う通りにおとなしく部屋を出た……のだが。
「なんでぇ……?」
程なくして聞こえてきたのは、情けない麻琴の声だった。
その後も、やっと聞き取れるほどの声で、ああでもないこうでもないとブツブツ言っている。
それと時折混ざって聞こえてくるのは、派手に何かを落とした音……と、叫ばないようにと慌てて口を塞いだように思える悲鳴。
やっと、何やら良い香りがしてきたな……と思ったのに、段々と香ばしくなり、とうとう焦げ臭い域に入ってしまった。
流石に火事でも起こしたら困るから慌てて部屋へ入ると、目の前に広がるのは惨劇のあとだった。
「あおとぉ~~」
眉をこれでもかとへの字にして半泣き状態の麻琴が、焦げ臭い匂いの正体を乗せたままのフライパンを片手に、ゆっくりと振り返った。
「何度やってもうまく出来ない……」
シンクの中のゴミ入れには、いくつもの卵の殻と、黒く焦げた物体。
あちゃー…と頭を抱えたくなるが、ここで麻琴を責めてはいけない。
「とにかくフライパンを置いて。火は…うん、消してあるね? どこか火傷とかしてない?」
フライパンを手放させ、指とか腕とか隅々まで確認する。
痛がる様子もないし、不自然な箇所もない。
「片付けはあとで俺がやるから、とりあえず手を洗って、あっちの部屋へ行こう」
シンクでそのまま手を洗い、隣の部屋まで連れ出す。
そして、ソファーへ座ると、ひざの上に麻琴を座らせて抱え込んだ。
腕の中にいる麻琴は、思い通りに行かなかったせいなのか、自分が不甲斐ないのかわからないけど、べそべそと半泣き状態のままだ。
よしよしと宥めるように頭を撫でる。
ともだちにシェアしよう!