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番外編 オムレツ(蒼人視点)①

 キッチンの方から、どう繕って表現をしようにも、「焦げ臭い」としか言えない匂いが漂ってくる。  麻琴(まこと)が俺を追い出して、鼻歌を歌いながらキッチンを占領したのが、30分ほど前。 『なにするんだ?』って聞いても、『いいからいいから~~♫』と嬉しそうに返してくるだけ。  俺はどう考えても嫌な予感しかしなかったが、麻琴の意思を尊重すると決めているので、言う通りにおとなしく部屋を出た……のだが。 「なんでぇ……?」  程なくして聞こえてきたのは、情けない麻琴の声だった。  その後も、やっと聞き取れるほどの声で、ああでもないこうでもないとブツブツ言っている。  それと時折混ざって聞こえてくるのは、派手に何かを落とした音……と、叫ばないようにと慌てて口を塞いだように思える悲鳴。  やっと、何やら良い香りがしてきたな……と思ったのに、段々と香ばしくなり、とうとう焦げ臭い域に入ってしまった。  流石に火事でも起こしたら困るから慌てて部屋へ入ると、目の前に広がるのは惨劇のあとだった。 「あおとぉ~~」  眉をこれでもかとへの字にして半泣き状態の麻琴が、焦げ臭い匂いの正体を乗せたままのフライパンを片手に、ゆっくりと振り返った。 「何度やってもうまく出来ない……」  シンクの中のゴミ入れには、いくつもの卵の殻と、黒く焦げた物体。  あちゃー…と頭を抱えたくなるが、ここで麻琴を責めてはいけない。 「とにかくフライパンを置いて。火は…うん、消してあるね? どこか火傷とかしてない?」  フライパンを手放させ、指とか腕とか隅々まで確認する。  痛がる様子もないし、不自然な箇所もない。 「片付けはあとで俺がやるから、とりあえず手を洗って、あっちの部屋へ行こう」  シンクでそのまま手を洗い、隣の部屋まで連れ出す。  そして、ソファーへ座ると、ひざの上に麻琴を座らせて抱え込んだ。  腕の中にいる麻琴は、思い通りに行かなかったせいなのか、自分が不甲斐ないのかわからないけど、べそべそと半泣き状態のままだ。  よしよしと宥めるように頭を撫でる。

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