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番外編 オムレツ(蒼人視点)②
黙って何も言わない俺に、麻琴は自らゆっくりと話しだした。
「蒼人 の、好きな……オムレツ、食べさせてやろうって……思ったのに……何度やっても、何故かあっという間に、焦げちゃうし…」
卵料理は、うっかりしてると焦げやすい。火加減と返すタイミングなど慣れていないと慌ててしまう。
麻琴は正直言って、料理はからっきしだ。調理実習でも、言い方は悪いが班のみんなの足を引っ張ることもよくあった。
そのせいもあって、つい俺が手を出してしまうクセがついてしまい、麻琴はなにか食べたいものがあると、俺にねだるようになってしまった。
麻琴のご両親に、あまり甘やかさないでねと言われた時に、大丈夫ですよとは言ったものの、本当は十分甘やかしてしまっている自覚はある。俺の弱点は間違いなく麻琴だ。
そんな麻琴が、俺の為に自らオムレツを作ろうとしてくれた。……こんな幸せなことがあるか?
まるで、『恋人』が『俺の誕生日』に、手料理を振る舞おうと頑張ってくれたみたいじゃないか。
……そんな妄想で、脳内がお花畑のようになっているのを悟られないように、平然とした態度で返事をした。
「俺に、オムレツ?」
「……ん。この前テレビ見てて、美味しそうって言ってたじゃん」
グズグズと鼻を鳴らしながら答える麻琴が可愛くて仕方がない。
俺に内緒で作って、驚かせたかったに違いない。やばい、顔がにやける。
「そっか。ありがとな。……じゃあ、今日は俺が作るから、今度また別の日に麻琴が作って」
俺の提案に、麻琴は黙ってこくんと頷いた。
涙は止まったものの、目は赤くウルウルした瞳のままだ。上目遣いで見つめられると、理性がぶっ飛びそうになる。
今までずっとそばで見守り続けてきたんだ。自らぶち壊してどうする。
んんっと軽く咳払いをすると、麻琴の頭をぽんぽんっと撫でる。
「麻琴は部屋で待ってて」
そう言って、麻琴を部屋に残したままキッチンへと戻った。
改めて見回すと、なにかの事件現場のようだった。
あまり麻琴を待たせたくないから、素早く片付けをした。
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