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番外編 七夕 1(蒼人視点)②
自分の脳内のセリフに、ふと動きが止まる。そして、昨日の夜のことを思い出してだらしなく口元が緩んだ。
もう無理と何度も懇願する麻琴の声が、泣き顔が、脳内で再生される。
麻琴は、俺が昼間からこんなことを考えてるとは思っていないだろう。
麻琴は普段と変わらぬ様子で、目の前でキャンキャンと子犬のように吠えたと思ったら、急に静かになって、あっ……と何かを思い出したようにパッと顔を輝かせた。
「もうすぐ七夕じゃん?」
麻琴の思考回路はとても分かりやすい。言わんとすることは、言う前から理解出来てしまう。
「七夕のお祝いにケンタッキーでも良いんじゃない?」
まるで名案を思いついたかのように、キラキラと目を輝かせて言う麻琴が可愛い。
正直、七夕にお祝いも何も? と思うのだけど、イベントにはしゃぐ麻琴が可愛いから、この際事実などどうでも良かった。
愛おしくて可愛い麻琴をしばらく眺めていたかったが、そうはいかない理由があった。
麻琴には内緒だけど、当日にサプライズで七夕祭りに出かける計画を立てている。
二人で浴衣を着て街中へ繰り出し、花火を見て、その後は温泉宿を予約してある。
絶対に喜ぶだろうと確信して立てている計画なのだけど、サプライズという性質上、バラすわけにもいかない。どう返事をするのか悩んでいると、目の前の麻琴の様子が怪しくなっていく。
「……七夕ケンタッキー、嫌? ……それとも、他に約束があるの?」
考えあぐねてすぐ返事を返さなかった俺に、疑問の言葉を投げかけてきた。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……。そうだ! 今日にしない? ほら、さっき麻琴もCMの真似してただろ? 普通の日の夕飯で食べるのもたまには良いんじゃないかな」
サプライズで驚かせて喜ばせたいという気持ちが先行し、今のこのやり取りにちゃんと気を配ることが出来ていないなと、苦笑する。
その証拠に、目の前の麻琴の口がどんどんへの字になっていく。眉もこれでもかというくらいに、ハの字になっていく。
ああ、どうして俺は、麻琴の前だとポンコツになるのだろうか。
「蒼人は、おれと七夕過ごすの嫌なんだ? ……そっか、嫌なんだ……」
どんどんと声は沈み、さっきのキラキラと輝いた瞳は見る影もなく、曇り空のようにどんよりと曇っていた。
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