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番外編 七夕 1(蒼人視点)③
「……そ、そうじゃなくて。その日は用事があって……」
そこまで言って、あ、まずいと口を抑える。けどもう口から出た言葉はもとには戻せない。
「用事? なんで? おれと七夕一緒に過ごすつもりは無かったんだ? 一人で出かけるつもりだったんだね」
今にも降り出しそうな空から雨粒が落ちるように、麻琴の大きな瞳からは、次々と涙が滑り落ちていた。
「蒼人のばかぁ……っ!」
そう叫ぶと、うわーんと泣きながら部屋から飛び出してしまった。
麻琴に馬鹿と言われた衝撃で、俺はフリーズし動きを止め、麻琴を追いかけるその一歩を踏み出せずにいた。
麻琴のスマートフォンに連絡をいれるものの、当然のように無視され返事なんか来ない。怒っているのだから当然だ。
このまま帰宅を待つか追いかけるか悩みながら、家の中をウロウロしていると、スマートフォンが鳴った。
『もしもしー?』
電話の向こうから聞こえてきたのは、卒業式ぶりの太陽の声だった。
『さっき麻琴が泣きながら駅の辺うろついてたから、とりあえずオレんち実家につれてきたんだけど』
話を聞くと、夏休みは忙しく帰省ができないから、急に昨日帰省することが決まって、ちょうど駅に降り立ったところらしい。そこでなんか泣いてるやつがいると思ったら、麻琴だったということだ。
幸いに周りに人はおらず、不審者に声をかけられるという事態は免れたらしいが、太陽にさんざん説教をくらってしまった。
「うわーん、蒼人のばかぁっ!」
太陽の実家へ迎えに行くと、奥の部屋から泣きながら叫ぶ声が聞こえてきた。家を出る前に俺に向かって言い放った言葉と同じセリフだ。
声のする部屋へ向かうと、目の前には『バーレルを抱え、泣きながらチキンを頬張る麻琴』が、いた。
「麻琴?」
静かに近づきそっと声をかけると、麻琴は驚いてビクンと身体を震わせ、驚きの表情でこちらを見た。弾みでバーレルも食べかけのチキンも落とし、足元にあったジュースも倒し、そんな惨事になった自分にも驚いて、さらに泣き声は大きくなった。
「うわーん、こぼれたぁぁぁ」
溢れたものを拾う余裕などなく、ひたすら泣き続ける。
「ああ、こぼれちゃったね。太陽に言ってくるから、待ってて」
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