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番外編 七夕 1(蒼人視点)④

 太陽の実家で汚してしまったのだから、早く片付けないと……と、その場を離れようとすると、麻琴の泣き声はもっとボリュームを増す。 「うわーん、蒼人ー! 行かないでぇー!」  さっきは怒って馬鹿と言ったのに、今度は行かないでと泣きながら呼び止める。  おそらく、次のヒートが近いのだろう。女性の生理と同じで、オメガもヒートが近くなると、ホルモンバランスが崩れ情緒不安定になることもあるらしい。 「おいおい、どうしたんだよ?」  麻琴の泣き叫ぶ声を聞いて太陽がやってくると、目の前の惨事を見て、アチャーと頭に手を当てる。  そして、片付けないとなー。と言いながら俺を見ると、麻琴のフォローしてやれよと目でうったえてから部屋を出て行った。  部屋にあるソファーへ腰を下ろすと、麻琴を自分の元へと呼び込んだ。  その声に素直に従い、グスグス泣きながらやってくると、いつものように俺の上に座る。座ったのを確認してから、そっと麻琴を包み込んだ。 「麻琴、ごめん。……実は、サプライズで麻琴との旅行を計画してたんだ」 「サプライズ?」  俺の言葉が意外だったのか、あんなに泣いていたのにピタリと泣きやんだ。 「そう、サプライズ。だから秘密にしたくて黙ってた。……そしたら、麻琴を不安にさせちゃったな。ちゃんと話をしようって決めたのに、ごめん」  理由を話し素直に謝る俺に、麻琴は勢い良くくるりと姿勢を変えて、正面から俺に抱きついてきた。 「おれも、ごめん。蒼人に嫌われたかと思ったら、めちゃくちゃ悲しくなっちゃって」  そう言いながら、また声が震えてくる。 「俺が麻琴を嫌いになるわけ無いだろ? 産まれた時からずっと好きなのに。……七夕は、旅行先でのお祭りに参加して、花火を見て、温泉宿でゆっくりしよう」  もうこれ以上麻琴を不安にさせないように、俺はしっかりと言葉にして伝えた。 「うんっ! 旅行楽しみだ!」  真っ赤にした目をこちらへ向けると、ニッコリとおひさまのような笑顔で笑った。  その後戻ってきた太陽と共に片付けをして、事情も話して、お礼もして、太陽の実家を出た。  前までなら、せっかく太陽も帰省してるのだから一緒に行くか?なんて誘ったかもしれないけど、今回は仲直りの意味も込めてなので声はかけないでおくことにした。  昔から太陽には何かと世話になっているけど、今回もまた世話になってしまった。また別の日にお礼をするために連絡をしようと思う。 「七夕が楽しみだなぁ」  弾けるような笑顔を向ける麻琴の手を、俺はきゅっと握り返した。

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