104 / 126
番外編 七夕 2(蒼人視点)③
七夕からさらに一週間過ぎ、俺と麻琴はリベンジで温泉旅行へ来ていた。
七夕は過ぎてしまったから、短冊に願い事を書くというイベントは叶わなかったけど、温泉旅行は行こうと改めて計画し直しをしていた。
「蒼人ー! 凄いよこの部屋! 露天風呂が付いてる!」
キャッキャとはしゃぐ麻琴は純粋に『部屋に露天風呂がついているなんて凄い』と感動しているのだろうから、俺の心の内なんて知らないだろう。
大浴場なんて行ってみろ。知らない奴らに麻琴の素肌を見せることになるんだぞ? そんなふざけた話はあるものか。たとえ神様が許しても、俺が絶対に許さない。
それに、個室の露天風呂なら、邪魔が入ることはない。
俺の邪は考えなど知る由もない麻琴は、お風呂が凄いだの、窓からの景色が綺麗だの、テンションが高いままあちこちへと移動していた。
その様子も、もちろんスマートフォンで録画済みだ。
地元食材をふんだんに使った夕飯(もちろん部屋出しをお願いした)を堪能したあとは、少し夜風にあたりながら外を散歩した。
空に浮かぶ満月が幻想的で、告白前なら「月が綺麗ですね」なんて言葉を口にしていたかもしれない。……と言ったところで、麻琴に通じる気はしないけど。
適度に食後の時間を過ごしたあとは、部屋へ戻って露天風呂だ。
このあとは、俺の目論見通りというか、願望通りというか、露天風呂からの朝までコース。
せっかく旅行へ来たのに朝は全く動けず、チェックアウトとギリギリまで延長してもらって、やっと動けるようになった頃には、もう帰宅の途へつかなければいけない時間になっていた。
「うわーん、蒼人のばかぁっ!」
バーレル騒ぎの時と同じ叫びを俺に向かって投げつけてきた麻琴は、その後もしばらくこの日の話を持ち出しては、ぶつぶつと文句を言うのだった。
そんな麻琴も可愛いなんて本人の前でうっかり口にしたら、火に油を注ぐようなものなので、俺の心の中に留めておくことにした。
(終)
ともだちにシェアしよう!