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番外編 おでこにキス(蒼人視点)①
大学へ進学して間もなく、麻琴 に2回目のヒートが来て、俺達は番になった。麻琴いわく、その瞬間は、体中の細胞が生まれ変わったみたい……と、感じたそう。
でも、産まれた時から距離感バグっていた俺達からすると、正直その後の生活には大きな違いはないように思える。
ただ、俺から一つ言えるのなら、あんなにかわいい麻琴なんだから、他のやつに狙われるかもしれないという漠然とした不安が、かなり軽減したように思う。
麻琴のうなじには、しっかりと俺の付けた印。
俺のモノ。俺だけのモノ。誰にも渡さない。
「蒼人 ー。これ見て見てー」
麻琴が手にしているのは、一枚の封筒。その中身を出しながら、こちらにパタパタと駆け寄ってくる。
「卒業式の写真、クラスメイトが持ってきてくれたんだー!」
あの事件のあと、外部との接触を制限していたが、首謀者も特定出来たし、なんと言っても俺達が番になれたことは大きい。
なので、麻琴の行動制限はほぼ解除されていて、こうやって高校時代のクラスメイトともやり取りをしている。
その中には、麻琴の事が好きだったと告白したやつも含まれるのが、気に入らないが。
そんな俺の心の内を知らない麻琴は、そのクラスメイトの名前を出し「Kくんが、写真を撮ってくれてたんだって」と、のんきに俺に言ってきた。
無意識にムッとして口をへの字にしてしまうが、麻琴はどうしたの?と大したことないと思いながらも軽く首をかしげて聞いてきた。
コテンと首を傾げる仕草は、絶対に俺を殺しにかかってると思う。世の中に麻琴よりも可愛いものはいるか?……いや、いない。
こんな些細な仕草でさえ、俺への無自覚な煽りかと思ってしまうほどだ。
高校まで我慢し続けた鋼の理性も、今は必要はない。とは言っても、麻琴の身体のためを思えば、本能のままに貪り尽くすわけにもいかず、常識の範囲内に留めているつもりだ。
「ほら、これ!」
数枚ある中で、嬉しそうに取り出した一枚。
麻琴が俺のおでこにキスをしている写真だった。
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