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番外編 やり直しバーレル ①
「明日の夕飯は、おれに任せて!」
料理はからっきし駄目なおれの代わりに、いつもは蒼人 が食事を作ってくれる。でも明日はおれが用意するんだ。
「……え? 麻琴 が作ってくれるの?」
蒼人がこっちを振り返り、期待に満ちた眼差しで、おれを見た。
ご、ごめん、蒼人。違うんだ……。
「……いや……作るんじゃなくて、準備するって意味で……」
おれは、僅かに開いた間を誤魔化すように、急いで返事をする。
蒼人の期待通りに作ってあげられない申し訳無さと、不甲斐なさが混ざって、語尾が窄まってしまう。
そんなおれを見て、蒼人はくすくすと笑い出した。
「大丈夫、分かってるから。……バーレルだろ?」
「ええっ?! なんで知ってるの?!」
蒼人には話をせずに、黙って買ってきて驚かせようと思っていた。だから、知らないはずなのに。
蒼人は、もう一度楽しそうにくすくすと笑いを漏らすと、おれの頭をポンポンっと撫でた。
「寝言で、バーレル買いに行くぞーって言ってたから」
おれ、寝言でそんな事言ったんだ……。
顔がぼんっと熱くなる。
「麻琴らしくて、可愛いよ」
言葉足らずであんな事が起きてしまった経緯から、蒼人は恥ずかしいくらいに、気持ちを言葉にしてくれるようになった。
めちゃくちゃ照れてるのはおれだけだろうか? 蒼人は照れる様子もなく涼しい顔でおれを溺愛する。
「お前さ、よく恥ずかしくもなくそんなセリフぽんぽん出てくるよなぁ?」
「恥ずかしくない。麻琴が可愛いのは事実だから」
蒼人曰く、今まではずっと心の中に留めていた思いを、口に出しているだけだそうだ。昔から、おれに対してずっと思っていたことを、言葉にして伝えているだけだから、恥ずかしいことは何もないのだと。
「そ、そっか……」
問いかけたおれが逆に恥ずかしくなってしまって、照れ隠しをするように、「ありがとな」と小さくつぶやくと、蒼人の頬にチュッと素早くキスをした。
◇
次の日。
七夕の日のやり直しのつもりで、バーレルをこっそり買ってきて驚かすつもりだったけど、蒼人にはバレバレだったので、一緒に買いに行くことにした。
帰り道、袋ごとバーレルを抱え、おれは満足そうに漏れ出るチキンの香りを大きく吸い込んだ。
「あ! 今日は見たい試合があったんだ! 早く帰ろう!」
先日、映画やテレビ番組やスポーツまで見れちゃうという、サブスクリプションに加入した。
今まではスポーツ観戦というものにあまり興味をもつことがなかったんだけど、サブスクを機に見てみたら、選手達の懸命なプレーにすっかり魅了されてしまった。
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