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番外編 やり直しバーレル ②

 帰宅してすぐテレビを付ける。タイミング良く、試合が始まったところだった。  「頑張れ、日本!!」  手際よくお皿や買ってきたサラダを並べ……たのは蒼人で、おれは手洗いうがい後さっさと特等席へ腰を下ろしていた。  今日は、たまにはいいよねってビールも一緒に買ってきた。しっかりと冷えたビールを片手に「蒼人まだぁ~?」なんて言うおれは、いい気なもんだ。 「お待たせ」 「やり直しバーレルにかんぱーい!」  準備を済ませて蒼人も隣に座り、おれの音頭で乾杯した。  何に乾杯するんだろう?って考えた時に、浮かんできたのは七夕の日のリベンジという思いだった。……だから、やり直しバーレルなんだ。  白熱する試合に、おれは「頑張れ!」と必死になって応援をしていた。手にしたチキンはひとくちかじったまま、ビールも一度口を付けたままで。  試合も勝敗がつきやっとひと息つけると思った時に、ふと視線を感じてそちらを見ると、蒼人がニコニコしながらこちらを見ていた。 「何を見てるんだよ?」 「もちろん、麻琴だ。俺には麻琴しか見えていない」  蒼人はおれの問いかけに対して当然と言わんばかりの返答をしたあと、不意打ちに頬へキスを落とした。  「あっ……」  不意打ちのキスに驚き手から逃げたチキンを、蒼人はすかさずキャッチすると「はい」と手際良くおれの口へと運んだ。  観戦に夢中になって忘れ去られてしまっていたチキンが、急に存在感を増す。蒼人の手によって運ばれたチキンを咀嚼すると、口中に旨味が広がってきた。 「蒼人も食べろよ」  不意打ちのキスで頬だけではなく顔全体に熱を帯びてきたのを隠すように、おれの食べかけのそれを蒼人の口元に押し付けた。  照れ隠しだなんて思われたくなくて、少しぶっきらぼうな口調になるものの、自分の食べかけを押し付けてしまったことに気付き、また恥ずかしくなってしまう。  そのうえ、これって間接キス……? そう考えてしまってまた顔が赤くなる。 「美味しいな」  ますます熱くなるおれに気付かない様子で、蒼人は笑いながらそう言った。  だからおれも、素知らぬ顔で「だろ?」とにっこり笑いかけた。  少し油のついた口元がなんだか色っぽく見えて、このまま蒼人を押し倒したいだなんて、おれが思っているとは夢にも思わないだろう。    蒼人の中では、おれはまだまだ無知で純粋なままの麻琴なんだから。 「チキン、美味しかったな。またバーレル買おうな!」  湧き上がる欲望は心の奥に仕舞い込んで、おれは蒼人に向かって満面の笑みを見せた。 (終) ✤✤ めーぷるさんからいただいた、ファンSSの、麻琴視点です。 七夕のやり直しバーレルです。 (アルファポリスさんの『麻紀の色々置き場』に、ファンSSを公開しています)

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