110 / 126
番外編 夏祭り(蒼人視点)①
「今年こそは、ちゃんと花火を見る!」
テレビから流れてくるのは、夏祭りのイベント情報。手元にあるのは、雑誌の夏祭りの特集記事。さらにテーブルに置かれたスマホにも、夏祭りの検索ページ。
何故麻琴 がこんなに気合を入れているのかは、容易に想像できる。
麻琴は昔から、花火や太鼓のような大きな音が大の苦手だ。
毎年お祭り自体は楽しめるのに、メインの打ち上げ花火間近になると、そわそわして落ち着かなくなってしまい、結局、花火鑑賞を諦めて早めの帰宅となることが多い。
去年はなんとか花火鑑賞までこぎつけたものの、俺が膝に座らせ包み込んで、耳に手を当ててやって、やっと安心をして夜空に打ち上がる花火を見上げることが出来た。
麻琴は、抱きしめていた俺の腕を、ぎゅっと握りしめたままだったけど。
「去年はさ、一応花火見れたけど、今度はちゃんと音も聞きたいんだ。そしたらもっと感動できるだろ?」
目を輝かせて言う麻琴が可愛くて仕方がない。
でも、そう簡単に克服出来るものではないと思っている。
麻琴の頑張りを否定するつもりはないけど、無理をしてほしくない。
「そのことなんだけど」
俺は、昨年の花火大会のあとから考えていたことを、麻琴に伝えようと口を開いた。
「会場まで行って見る花火もいいけど、花火が見れる温泉宿に泊まるというのはどうだろう?」
「温泉宿?」
「そう。花火を部屋から見れたり、温泉に入りながら見れたりするところもあるんだ」
「温泉に入りながら!? それは凄いね!」
麻琴は、ぱっと目を輝かせて、俺に抱きついてきた。
「蒼人 凄い! なんでも知ってるんだね」
「もし音が気になるようなら、窓を閉めて部屋から見ることも出来る」
「そっかぁ。それなら安心だ。これで蒼人もゆっくり花火を楽しめるね」
俺の腕の中にいる麻琴は、嬉しそうにスリスリと頬ずりをしながら言った。
「え?」
「ん?」
麻琴は顔を上げて、ん?っと顔をかしげた。
か、可愛い……。
ともだちにシェアしよう!