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あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~ 8. 簡単な説明 | 一ノ瀬麻紀の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
あれで付き合ってないの? ...
8. 簡単な説明
作者:
一ノ瀬麻紀
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8. 簡単な説明
百合子
(
ゆりこ
)
さんの問いかけで我に返った僕は、「そうなんです、知り合いなんです」と、何食わぬ顔で言おうと口をひらいた。 でもそのタイミングとほぼ同時に、パタパタと足音がしたと思ったら、前からガシッと抱きつかれた。 ──えっ!? 僕は予想もしなかった衝撃を体で感じ、動きが止まる。 そして、そーっと僕に
し
が
み
つ
い
て
い
る
モ
ノ
の正体を確認すると、紛れもなく、先程まで入口にいたはずの
由比
(
ゆい
)
くんだった。 「
飯田
(
いいだ
)
くん! 会いたかった!」 由比くんは僕に抱きついたまま、顔をあげた。キラキラした瞳の上目遣いは、オメガの僕でさえドキッとしてしまう。 あれ? 由比くんって、こんなに可愛らしい雰囲気をまとっていたっけ? どちらかと言うと、元気で明るくキラキラと輝いている印象だった。 けれど僕に抱きついている由比くんは、以前よりふんわりと柔らかく可愛らしくなっていた。 「ゆ……ゆい、くん……?」 戸惑いがちに声を掛ける僕に、なぁに? と言いたげな瞳でこちらを見てきた。なんだろう、この期待に満ち溢れたような瞳は。 でも正直、嬉しいけど困ってしまっている。合わせる顔がないと思っていたのに、突然の再会の上に、抱きつかれたんだ。 そんな僕を察してか、
森島
(
もりじま
)
くんがつかつかとやってきて、僕から由比くんをベリっと引き剥がした。 「
麻琴
(
まこと
)
。飯田くんが困っているだろう」 「えー? なんで困るんだよー?」 引き剥がされた由比くんは、不満げに森島くんに向かって言いながら、町長さんの方に戻って行った。 「町長さん、すみません、お時間を取らせてしまって」 「あ、いやいいんだよ。……君たち、知り合いなのかい?」 「ええ。高校時代の友人です」 森島くんと町長さんのやり取りを聞いていたら、僕たちのことを『友人』と紹介してくれた。 由比くんの行動からして、ただの知り合いと答えられないのはもちろんわかっている。けれど、体裁を保つためとは言え、友人と言ってくれたことに、僕は胸が熱くなった。 「それなら、今回の件はぜひ受けさせてもらわないと」 「そう言っていただけるのは大変嬉しいのですが、まずはこちらの視察についての詳細をお話してから、決めていただければと思っています」 「そうだな。では、詳しい話を聞かせていただこうか」 森島くんの言うことはもっともだと思う。町全体のことなのだから、私情を挟んではいけない。 百合子さんの案内で、皆席につくと、まずはあいさつと名刺交換をした。その頂いた名刺を見て、僕と
星司
(
せいじ
)
くんは顔を見合わせた。 森島くんと由比くんは、高校三年生の時に治験に参加していた。その会社こそが、名刺に書かれているシンセンス研究所だ。そして、星司くんのおじい様が会長を務める、
八重
(
やえ
)
製薬のグループ会社でもある。 まさか、森島くんと由比くんが、星司くんの家のグループ会社に就職しているとは思わなかったから、びっくりした。 名刺を見て思わず声を漏らしてしまいそうになったけど、中断させてはいけないと言葉を飲み込んだ。 「本来ならば、私の上司がお話をさせていただくべきことなのですが、今回のプロジェクトは私たち二人に任されています。若輩者ですので不安なところもあるかもしれませんが、精一杯説明させていただきますので、ご一考いただければ幸いです」 森島くんは、「若輩者ですが」なんて言っていたけど、むしろベテランの貫禄さえ感じるくらい、堂々としていた。 きっちりとスーツを着こなし、言葉もとても丁寧なのだけど、堅苦しい印象ではなく、時折優しく微笑む笑顔が皆の心を和ませていく。 「まずは、大まかな概要を説明させていただきます。当社は、
八重
(
やえ
)
製薬のグループ会社として、薬の研究開発を中心に行っています。その中で今力を入れているのが、第二の性に関わる薬の研究開発です。同時に、オメガのための施設の立ち上げ計画も行っています。今はその施設用の土地を探しているのですが、その視察をさせていただきたいと思っております。……ここまでの説明で、何かご不明な点などはありますでしょうか?」 簡単な概要を話し終えたところで、森島くんは小休止を挟んだ。 ここで興味を持たなければ、町内会で話し合ったうえで、後日回答させてもらうとかなんとか言って、今日はお帰りいただくこともできるだろう。 「うん。とても興味深い話だね。もっとしっかりと話を聞かせてもらおうかな」 町長さんは、森島くんの話を聞いて、大きくうなずきながらそう言った。 その場にいた全員の顔が、ぱぁっと明るくなったような気がした。
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一ノ瀬麻紀
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