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10. ずっと友達
「由比 くんは、本当にそれでいいのか……?」
「うん、いいよ。それよりも、佐久 くんと飯田 くんに再会できて、元気そうな姿を見れたほうが嬉しい!」
由比くんは、にかーっとした笑顔でそう言った。
森島 くんを始め、ご両親や周りの人たちに守られ、大切に育てられたのだろう。こんなに純粋で真っ直ぐな人は、そうそう出会えるものではないと思う。
そして、由比くんは自分がそうしてもらったように、沢山の人を幸せにしてきたのだろう。
……僕もその中のひとりだ。友達がいなかった僕の初めてのオメガの友達。あんなことをしてしまったけれど、一緒に過ごした時間はかけがえのない大切な時間だ。
「正直……すぐに、普通に接するというのは、難しいかもしれない。二度と会うことはないと思っていたのに、偶然にも再会してからの急展開すぎて、俺たちの感情も追いついていない」
星司 くんは、そこで一呼吸置いた。森島くんも、由比くんも、口を挟まずに黙って聞いてくれている。
「……それでも、由比くんがそう言ってくれるのなら。……これからも、月歌 の友達でいてやってほしい」
星司くんはそう言いながら立ち上がると、深く頭を下げた。
僕もその隣で、二人に向かってゆっくりと頭を下げた。
「もうやだなー。顔を上げてよ~。飯田くんも佐久くんも、ずっと友達だよ!」
顔を上げると、嬉しそうににこにこ笑う由比くんと、その由比くんを優しいほほ笑みで見守る森島くんがいた。
その後、まだなんとなくギクシャクするものの、少しずつ自然に話せるようになってきた。今日急に慣れ親しんだ友達のように話せるかと言うと、それはまだ無理だけど、これからも何度も会えるのだから、少しずつ慣れていけばよいと思う。
「あ! そうだ! おれ、森島麻琴 になったから、名前で呼んでほしいんだ」
「二人は結婚したんだね。おめでとう」
「ありがとう! 飯田くんたちは?」
「うん、僕たちも夫夫 になったよ。……だから、僕も名前で呼んでくれると……嬉しいな」
ずっと名字で呼び合っていたから、なんか気恥ずかしくてモジモジしてしまう。
それに、ほんと、もう二度と会うことはないだろうと思っていたから、また名前を呼び会える日が来るとは思っていなかったし、名字ではなく下の名前で呼べるなんて、夢みたいだ。
「えっと……月歌くん?」
「麻琴……くん?」
二人でなぜか、語尾にクエスチョンマークを付けて、ちょっと首を傾げて名前を呼んでみた。
そして、ちらっと麻琴くんの顔を見ると、同じように僕の方をちらりと見て、照れたように笑った。
「改めてよろしくね!」
そう言って麻琴くんの差し出した手を、僕は握り返した。とても優しいぬくもりだった。
「佐久くんのことも、星司くんと呼ばせてもらうね。佐久くん二人だもんね。……うちの蒼人も下の名前で呼んでね。おれも森島だからさ」
「よろしく」
ニコニコの麻琴くんの隣から、すっと手が差し出された。相変わらず表情の変化が少ないけど、さっき麻琴くんに向けていたほほ笑みは慈愛に満ちていた。本当に麻琴くんのことが大好きなんだろうな。
「よろしくお願いします」
僕と星司くんは同時にあいさつをすると、順番に森島くん……じゃなくて蒼人くんとも、握手を交わした。
「では、今日はもう帰ります。後日町長さんに連絡をしますので、改めて詳細をお話させていただきます」
蒼人くんは再びお仕事モードになると、そう言って会釈をして立ち上がった。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん。今日は楽しかった! 星司くん、月歌くん、またね!」
蒼人くんが手を差し出すと、嬉しそうに麻琴くんがその手を取り立ち上がった。そして僕たちの方を見て、嬉しそうに手を振った。
僕も手を振り返すと、車に乗り込む二人を見送った。
「本当に、良かったのかな……」
完全に二人の乗る車が見えなくなってから、僕はポツリとつぶやいた。
僕の言葉に、星司くんは繋いだその手をぎゅっと握りしめた。
「俺達のしてきたことは一生忘れてはいけない。けど、あの二人が友達だと言ってくれる限りは、偽りなく接していけたらいいなと思っている」
「うん……そうだね」
次に会った時は、この子のことも伝えよう。
僕は少しふっくらしてきたお腹を優しく撫でた。
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