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06 待ち合わせ

『あの時の言葉……ですか』  電話の向こうの凛太郎(りんたろう)の声が、小さくなった。  初日のあの勢いはどこへ行ったんだろう。オレの口からは、ふっと笑いがもれた。 「そうだよ。いきなりオレを抱きしめて、言っただろ?」 『はい……言いました』 「それとも何か? あれは冗談だったと?」 『そんなこと!……そんなことあるわけないじゃないですか……』  何を思って、凛太郎は躊躇しているのかはわからなかったけど、ちょっとオレも意地悪しすぎたかな。  電話の向こうの凛太郎の声は、気のせいか少し震えているような気がする。 「意地悪言って悪かったな」 『いえ、僕も改めて、ちゃんと伝えたいなと思ってるんです。……ただ、ちゃんと会って、太陽(たいよう)さんの目をしっかりと見て、僕の思いを伝えたいんです』 「そうか。……そうだよな。大事な話だもんな」 『わがまま言って、すみません』 「いや、今の言葉だけでも、凛太郎の本気が伝わってきた。……オレも、ちゃんと自分の気持ちと向き合ってみるよ」 『……ありがとうございます』  やっぱり、凛太郎は誠実なやつだ。初日のバグった距離感に焦ったものだけど、あれも凛太郎の強い思いの結果だったんだと思う。  でも、やっぱり引っかかるのは、あの時の『やっと会えました』という言葉。  もしかしたらどこかで会っているのかもと、あれからずっと考えているけど、思い当たる節がない。  それも含め、近いうちに凛太郎の口から直接聞ける日が来るだろう。  ……それまでに、オレも自分の気持ちと向き合っていかないとな。 「じゃあ、そろそろ寝るか。明日、17:00に駅前ロータリーな。遅刻すんなよ」 『はい、大丈夫です! 楽しみにしています!』 「おやすみ」 『太陽さん、おやすみなさい!』  最後には、いつもの元気の良い凛太郎の声に戻って、通話を終了させた。 ◇  次の日。オレは朝から何かソワソワして落ち着かなかった。  普段は仕事帰りに特に用事があるわけでもなく、まっすぐ家に帰るのに、今日は夕方から出かける予定ができた。  この用事は『仕事の一環』なわけだけど、一緒に行く相手は、オレに好意の目を向けてくれている凛太郎だ。  昨日の電話のこともあるし、仕事のための外出とは割り切れずにいた。  7:30。いつもの時間にクリニックに到着すると、当日順番待ちの紙を外に出した。  うちのクリニックは、基本は事前予約だ。それに加え、当日予約の時間指定枠と順番待ちもできるようになっている。  今日は土曜日なので、混雑するのは目に見えている。  なのに、仕事に気持ちを切り替えようとしても、昨日の凛太郎の声が耳に残っていて、なかなかスイッチが入らない。 「今から仕事だぞ、しっかりしろ!」  オレは両手で頬を叩くと「よしっ」と気合を入れた。 「お疲れ様でしたー。……あ、春岡先生、キッズスペースの件で、これから凛太郎とホームセンターに行ってきます」 「時間外に、ありがとうね。凛太郎くんにもよろしく伝えておいてね」 「はい、良さそうなものがあったら買ってきちゃいますけど、大丈夫ですか?」 「いいよ、君たちに任せているから」 「ありがとうございます。では、お先に失礼します」 「はい、今日もありがとうね、お疲れ様」  オレは、春岡先生にあいさつをして、クリニックの外に出た。  普段は最後まで残って片付けをしてから帰るけど、今日は凛太郎との約束があるので、少しだけ先に帰らせてもらった。 ◇  一度家に帰り、支度をして約束の時間に間に合うように家を出た。  いつもは悩まない服装など気にしたり、普段は適当に持ってるバッグを、もう少しだけ綺麗なものにしたり……なんか柄にもなく、この時間が少しだけ楽しく感じた。  夕方の駅前ロータリー付近まで来ると、仕事帰りの人や学生たちで、とても賑やかだった。  オレは車を寄せながら、凛太郎を探した。 「あ、いたいた」  凛太郎は背が高いからよく目立つ。顔も整っていて、そういう意味でもとても目立つのだけど、今この時の周りからの視線は、多分そういうのと違った。  なんだろう? と思ってさらに近づくと、人混みに隠れていて完全に見えなかった凛太郎の全身が見えた。――と同時に、凛太郎の腕に自分の腕を絡めた、小柄な男性も見えた。 「なんだ、あれ……」  ほんの少し前まで、浮き立っていた心が、急にひゅっと冷え込んだ。  友達……? にしても、あんなに密着して、距離感おかしくないか?  オレは、自分の中に覚えのない感情がわき上がってきて、心の中で首をひねった。  そして、心の中にとどまっているこの感情が何なのかわからないまま、オレは駐車スペースに停めて車を降りた。  わかりやすいように軽く手をあげ、声をかけようとした瞬間、凛太郎と目が合った。オレはベータの平均身長だから、この人混みには紛れてしまう。なのに一瞬で気付くとは。 「太陽さん! こっちです!」  いつもと変わらぬ様子で、笑顔を振りまいて手を振る凛太郎に、周りの人が一斉にオレを見た。うわ、やめてくれ、その、お前はこいつのなんなんだみたいな視線は。  でもそれはそうか。少し前まで……というか今も、そばには親しそうに身を寄せる小柄な男性がいる。  周りからすれば、オレの方が間男に見えるよな。 「待たせたな。……ところで、こちらの方は?」 「ああ、こいつは……」  オレの問いかけに、凛太郎が答えようとした途端、隣にいた小柄な男性が、ぐいっと前に出てきた。 「こんにちは! 僕、凛太郎くんの婚約者の雪村 詩音(ゆきむらしおん)です!」 「……え?」

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