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「お母さまのこと、好きだね」 「うん、だいすき! いつもやさしくて、にこにこするー!」 「そうだね。葵はいつもそうだったね」 分かりきっていたのについ訊いてしまう。 葵は優しい。本当に優しい。 誰かが困っていたりしたら、真っ先に助けに行ってしまうのを度々見てきた。 持久走で足の遅い子がいたら一緒に走ったり、重いものを持っているのを見かけたら、分けて運んだり、探し物を一緒に探したり、文化祭準備の時もこっちが心配になるぐらい遅くまで残ってやっていたり。 そういった無条件に周りに愛想良く、そして優しくしてしまうから、調子に乗った奴らが馴れ馴れしく仲良くしてくる。 その度に人気のないところで呼んでは、弱みを握らせて葵に近づけさせないようにしてきた。 そんなことをするのがとても手間で、こんなことをしている時間があれば葵の元にいたいと何度思ったことか。 元はといえば、外になんか出さなければ良かったのだ。そうしなければ、葵は今でも自分だけのいい子で素直で純潔だった。 浅はかな判断をしてしまった。 ボールをこちらに投げ返していた新が、「おかーさまかいてるのー?」とやってきた。 「うん! おかーさま! いいでしょ!」 「ん! おかーさま、にこにこ〜!」 「にこにこ〜」 真はお絵描き帳を持ったまま、新とほぼ同時に身体を揺らしては歌うように言っていた。 「あーにも、なでてするし〜」 「まーにも、おうたうたってくれる〜」 ふんふんと歌う二人に苦笑いしていた。 新はボール遊びしたいと真と喧嘩していたのに、今度は二人して歌なんか歌い出している。 よく分からない二人だ。

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