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10.
その部屋に入る際、なるべく起こさないようにと細心の注意を払い、これでもかとゆっくりと障子を開けた。
と、起きていたようだ。部屋の奥の方に敷いた布団に横になり、控えめに咳き込んでいた。
きっと子ども達に悟られないように気を遣っているのだろう。
子ども達がいる部屋から離れているし、それにこの部屋の存在は知らないはずだ。なにもそこまで気を遣わなくていいのに。
誰に対しても本当に優しく、この世でもっとも愛おしい相手の頭を撫でる。
「あ、お⋯⋯と、さ⋯⋯」
頬を赤くし、潤んだ瞳で見つめてくる。
熱のせいで弱々しく、自分に助けを求めているように見える。
現に碧人の手に擦り寄せてくるのだから。
愛おしい。
こんな状況でも、その愛も痛みも刻みつけた自分だけの身体の奥の深く深くに刻みつけたくなる。
「まだ辛そうだね」
「うん⋯⋯」
返事するのも億劫そうであったが、どこか嬉しそうにも見えた。
誰もいない薄暗いこの部屋でたった一人になったような気持ちになり、寂しく思ったのだろう。碧人が来て思わずといったところかもしれない。
普段は意地を張って、素直にならないところもあるが、根本的なところは変わらないことが見て取れる。
「⋯⋯あお、と、さん⋯⋯し、ごと、は⋯⋯?」
「父さんに任せてる。葵が心配することじゃないよ」
父である行成 は、碧人に仕事をほぼ任せ、そのできた時間を地下牢にいる母・幸成と共に過ごしているようだった。
今まで仕事にかまけて、愛する妻と一緒にいられなかったというのもあるが、元々病弱な人だ。桜屋敷家の次男として産まれてしまったのも相まっていつその命が散ってしまうか分からないからであろう。
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