12 / 13
12.
「本当に子ども達のこと好きだよね」
「うん⋯⋯可愛くて⋯⋯可愛くて⋯⋯早く、治して⋯⋯会いたい」
妊娠中は、手にかけたいほど憎んでいたのに。
そんなどす黒い感情が口から出そうになった。葵を追い詰めて、痛めつけてやりたいと。
ああ、だめだ。葵のそばからひと時も離れたくないと思っていたのに、葵の口から子ども達 のことを話したせいで、穢してやりたいと思ってしまう。
あまりにも名残惜しいが、ここから離れるしかないか。
「⋯⋯葵。僕がいると気遣って喋ってしまうでしょ。だから僕は行くから、ゆっくりと休んで子ども達のために早く治して」
布団のそばで座っていた碧人は言い聞かせるように言って、立ち上がろうとした時、葵はゆるゆると首を横に振った。
「⋯⋯待って。⋯⋯寂しいから、まだいて」
やっぱり寂しいと思っていた。昔から変わらないと苦笑にも似た困ったような顔をした。
「でも、葵には無理させたくはないんだ」
「⋯⋯──兄、さん」
胸を貫かれたような衝撃が走った。
まだ兄弟だと信じて疑わなかった頃の葵が、そう呼び慕っていた。
懐かしい。
「⋯⋯ねぇ、いなきゃならない理由ができたでしょ⋯⋯?」
悪戯な笑みをチラつかせる葵に、小さくため息を吐いた。
しかし、その口元は緩んでいた。
「そんなことを考えるなんて、悪い子だ」
悪い子、と言った瞬間、期待するような眼差しへと変わった。
だが、葵が思うようなことを今の状態ではさすがにするつもりはない。
せめてもと汗で湿っている髪を払い、晒された額に口付けをした。
途端にピクッと、震わせる。
熱のせいではない、甘く蕩けるような顔をした葵は次に期待しているようだったが、それ以上何もしてこないことに不思議そうな顔を見せた。
ともだちにシェアしよう!