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「本当に子ども達のこと好きだよね」 「うん⋯⋯可愛くて⋯⋯可愛くて⋯⋯早く、治して⋯⋯会いたい」 妊娠中は、手にかけたいほど憎んでいたのに。 そんなどす黒い感情が口から出そうになった。葵を追い詰めて、痛めつけてやりたいと。 ああ、だめだ。葵のそばからひと時も離れたくないと思っていたのに、葵の口から子ども達(自分以外)のことを話したせいで、穢してやりたいと思ってしまう。 あまりにも名残惜しいが、ここから離れるしかないか。 「⋯⋯葵。僕がいると気遣って喋ってしまうでしょ。だから僕は行くから、ゆっくりと休んで子ども達のために早く治して」 布団のそばで座っていた碧人は言い聞かせるように言って、立ち上がろうとした時、葵はゆるゆると首を横に振った。 「⋯⋯待って。⋯⋯寂しいから、まだいて」 やっぱり寂しいと思っていた。昔から変わらないと苦笑にも似た困ったような顔をした。 「でも、葵には無理させたくはないんだ」 「⋯⋯──兄、さん」 胸を貫かれたような衝撃が走った。 まだ兄弟だと信じて疑わなかった頃の葵が、そう呼び慕っていた。 懐かしい。 「⋯⋯ねぇ、いなきゃならない理由ができたでしょ⋯⋯?」 悪戯な笑みをチラつかせる葵に、小さくため息を吐いた。 しかし、その口元は緩んでいた。 「そんなことを考えるなんて、悪い子だ」 悪い子、と言った瞬間、期待するような眼差しへと変わった。 だが、葵が思うようなことを今の状態ではさすがにするつもりはない。 せめてもと汗で湿っている髪を払い、晒された額に口付けをした。 途端にピクッと、震わせる。 熱のせいではない、甘く蕩けるような顔をした葵は次に期待しているようだったが、それ以上何もしてこないことに不思議そうな顔を見せた。

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