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カブノクニ2
ホテルの食事も美味しいし、チャーンに連れ出されて行った屋台のご飯も美味しかった。そして、ホテルで伝統舞踊を見た時、コールボーイとは思えない様な真剣な眼差しをダンサーに向けていたのが意外だった。僕の方も、最近は創作歌舞伎にアジアの神話なども入ってくる、刺激的な時間だった。
「夜になったら裸で泳ごうよ」
「いいのそんな事して……」
「何度かやってるんだよね」
二人用のカウチで抱き合いながら、チャーンはカカカっと笑っている。友達もあまり居ないし、同世代の役者さんとも仲良くなれずにいる。年の近い子達が皆同じ芸能の学校に通う所に、僕だけそこそこ進学校に行ってしまった挙げ句更に大学に行っているのは僕だけなのだ。
「チャーンは、どうしてそんなに日本語上手いの?」
「母親が日本人なんだよ、本当に小さい頃は暫く住んだこともあるよ」
「そうだったんだ、その……なんでコールボーイを……言えなかったら言わないで」
「恋人を作る気がないんだけど、誰かと抱き合ってセックスがしたくてさ、別に家が貧乏とかじゃないよ」
「どうして恋人をつくらないの……?」
「それは秘密だよ」
チャーンは、擽るように抱きついてくる。あまりコールボーイに詮索してはいけないのだろうと思った。
そして、沢山の口吻を顔中に浴びせかけてきた。その一回一回が凄く嬉しいのだ。こんな日が自分に来るとは思ってもみなかった。
全裸で泳ぎながら、抱き合って、キスをして、また泳いで、はしゃぎすぎてぐったりとした所で、プールサイドの椅子に押し倒される。コンドームを被せられて、咥えられてしまった。
何度もいちゃついて、何度も射精して、少しは慣れたかと思ったがそんな事は無く、悶える事しか出来なかった。
「タオトーンは、タチとネコどっちになりたいの?」
「あ……わからなくて……ただ、女の子じゃなくて、男の子にばっかり惹かれて、仕事が男ばっかりだからかな……でも皆結婚するし、ボクがゲイなだけか……」
「僕はね、本当の本当はタチなんだよ。この見た目だし、入らないって言われるからネコやってる。嫌いじゃないしね、だからどっちも試せるよ、どうする?」
「……僕は……今はチャーンに喜んで欲しいと思ってるの……って、困るかな……」
「困らない。困るのは、タオトーンの方かも……」
激しく唇を吸われ、噛みつかれる。少し痛い位なら気持ちいいという事を知った。首を舐めて、乳首を舐められて、舌先で転がされ、押しつぶされ、吸われ、ぷっくりと腫れる。
「苦しかったら言ってね」
チャーンは潤滑剤を手にして、お尻の間に指を割り入らせてきた。異物感に、息も絶え絶えになる。ペニスの方はチャーンの口の中で刺激され、前と後ろから攻め立てられる感覚に酷く興奮して視界が狭まってしまう。
「ここ……」
「やああっそこ……前立腺?」
「そう……気持ち悪い?」
再び指でぐいっと押されると、悲鳴になる。しかし、気持ちいい。気持ちがいい。ハアハアと、息を上げながらチャーンに縋り付く、キスをしてほしくて、あさましくも引き寄せて自分から、カプリとチャーンの唇を奪う、昨日初めてキスをしたのに、もうこんな事が出来てしまうなんて、思わなかった。
「好き、好き……」
「うん……」
「ちゃあ……もっと……」
「うん……」
泣きながら、チャーンを抱き寄せて沢山唇を寄せて、中を揺さぶられると仰け反り、ひくひくとしてしまうこんなに気持ちよくて嬉しくて切ない事ってあっただろうか。歌舞伎に出てくる女達はこんな恋をしていたのだ、自分が演じてきた、女達の恋は今まで何となく想像していた気持ちよりも、もっともっと浅ましかったのだ……
チャーンはぷっくりとした、プラグと呼ばれる物を押し込んでから、身体を起こした。
「入らないけど、こっちでいかせて……」
脚を抱え上げられて、チャーンのペニスをはさみ、ぐちゃぐちゃとペニス同士をこすり合わせる。その度に後ろが締まり、硬い何かが前立腺を強く押す。
「いっいってもいい?ちゃあ?ちゃあは?いく?ちゃあっんは?」
「うん、僕もいくから……いって良いよ。気持ちよくなって」
「あっあっちゃーちゃーんちゃーんんっん」
頭が真っ白になった。
滞在中、めいいっぱいの時間をチャーンと過ごして引き千切られる様な思いで、涙腺がゆるゆるになってメソメソと泣きながら帰国すると、空港に両親が迎えに来ていた。
「なんでいるの……?」
「お前……俺のカードで航空券とホテル払っただろ……」
「あ……」
そう、自分のカード会社が使えない事を知らず、緊急用の家族カードを使ってしまっていたのだ。
「ごめんなさい……ちゃんと返すよ……貯金はあるから……」
「いや……たまにはいいさ、ずっと勉強と稽古と舞台だったからな。息抜きは、できたか?」
「うん、一応……」
微妙な顔になっていないかどうか、凄く心配になったし、出来ることなら本当にお金は返したい、なんせ、エッチな事をしに行くのに親の金を使う、というのはいくら世間知らずでも駄目だという事はわかる。こっそりとでも父の口座に振り込もうと思った。
それから、僕は凄まじい集中力と勤勉さで夏を乗り越えた。
「ずいぶんとお祖父様に似ましたね」
「そうでしょうか……」
お稽古で静香御前を舞った時には師匠の叔母様に言われた。祖父は女形の上手い人で、父はどちらかと言うと荒事の立役の方が上手い。
「そうですね、往年の名優といった趣ですよ、もう会えないような失恋でもしたのかしら?」
「そんなことは……」
あったといえるのかもしれないが、たった三日間の事だ。チャーンは、最終日も見送りまで側に居てくれた。連絡先は交換したけれど、写真やお礼を送ったくらいで、とくに連絡はしていない。
チャーンと過ごした思い出さえあれば、このまま一生一人でも生きていける様な気がしていたのだ。女性と結婚する事も出来るかもしれない。失礼な話だが……
写真を眺めたり、思い出しながら自慰に耽った。
どうしてもさみしくなった時は、会いに行きたい。辞めていなければ良いなと思う。
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