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かぶりつく

「まって……あっ……」  部屋に入ると、志乃は僕の手を引っ張り寄せて抱き込んできた。力強く。そして、唇と唇は自然に張り付く。吸い合ってお腹と鳩尾がジンジンする。  「ごめんね、本当は最初からわかってたんだ」  「うん……」  「あの日に打ち明けたら、傷付けるんじゃないかと思った」  「そうだったと思う……」  日本から離れて、一人のただの自分として過ごしたかったのだから、やっとの思いで呼んだコールボーイが志之だったなんて、とても受け入れられなかっただろう。  「僕はずっと祥明さんが好きです。付き合ってください」  「むり……」  「どうして?」  志乃は、悲しい顔をしている。  「僕は結婚して、子供育てて、初舞台を踏ませて……それで……」  志乃は目を見開いた。  「僕は売り物じゃないとダメなの……?」  「そうじゃない……」  「僕のこと、好き?」  「す……すきじゃ……ない……」  「嘘だよ」  「うっうそだけど……」  「……嘘なら、ゆるしてあげる……」  記憶の中の色っぽく爽やかに笑っている志乃は、今は目の前で年相応の顔で傷付いて、下唇を噛みながら、耐えている。何て酷い事をしているのだろう。今すぐ、全部撤回して、本当は大好きだよと言って、一生側に居てと言って、笑わせたい。志乃を笑わせたい。笑顔が見たい。なのに……小さい頃の、凄く低い所から見た、揚巻の……祖父の美しい姿が目の奥に焼き付いている。隣に居た志乃も見ていたはずだ、圧倒される舞台を。  「じゃあ、付き合ってなんて言わない、女を抱けるならいくらでも抱けばいい、結婚もしたら良い。その代わり、僕以外の男には抱かれないで」  「うん……」  「今すぐ、抱かせて」  「まっ待って、家に遅くなるって連絡するから……」  「どうぞ……」  深く息をついて、困った顔をされてしまった。でも、心配させるのは良くないのだ。  バスルームに籠り、以前教わった後ろの準備をやろうと思った。  「今日もやってあげるよ?前は僕がやったんだから」  外から声がする。  「これ恥ずかしいからいい……上手く出来るか分からないけど……外で待ってて」  「困ったら呼んでね」  シャワーヘッドを外して、少し手が震えている事に気がつく。これでいいのか……いや、志乃がそうしてと言ったのだから、それでいい……きっと、この先僕は女性と結婚をして、後を継ぐ子供を育てる。家と芸を継続させる。自分がそうしてもらった様に、家族で育てていく。続くというのはそういう事だ。先人と同じ事をするだけだ。何故か、苦しくて泣けてくるのは、上手く演れるのか心配だからだ。演ると決めて、舞台に上がるのは自らの足なのだから。準備が終わっても蹲って動けなかった。  「賀朝おにいさん……」  遅かったからか、流石に志乃が入ってきた。  「しの……くん……」  「祥明さん……」  「準備は終わって……」  「わかった」  ぐいっと、手を引かれて立ち上がった。前にもこんな事があった。  「僕行きたいけど初めてだから、お兄さん一緒にきてね!」と、言われたのだ、あの時、急に責任感の様なものが芽生えたのだ。後に続く人の手本になる様に振る舞いなさいと、言われてきた事を理解したのだ。  ベッドに至るまでは素早く荒々しかったが、いざとなると、志乃はゆったりと口吻をした。慈しみを感じる、柔らかくて温かい唇と舌が、僕の身体を緩ませた。なされるがままだ。前身にキスをされ、脚を広げられ、早急に指が入ってくる。前回からそう日が経って居ないからか、すんなりと受け入れ、そして、身体を震わせる。ゆっくりと、まるで指圧の様に押し広げられる。少し苦しい。前もゆるくこすられている。  「志乃のも、触らせて……」  「うん……」  軽くしか反応していない志乃に軽いショックを受けつつも、先端を指でなでて、しごく。優しく、擽る様に撫でると、志乃は気持ちよさそうに目を細める、その姿を見ていたらつい口元が緩んでしまう。  「なに笑ってるの……」  「あっかっかわいくて……志乃が……」  「そんな事ない、今凄く意地悪なのに……」  「どうして……?僕、意地悪されてるの……?」  純粋に疑問に思ったわけだが、志乃はぐったりと僕の胸に顔を寄せる。  「本当なら、僕は身を引くべき?帰るべき?っておもってるんだよ」  僕は志乃の頭を抱えてて、脚で身体を抱える。  「祥明さんは残酷だし……」  志乃は強く抱きかえしてくる。そして、指がズルリと抜かれる。ギチギチに詰まっていた所から急に何もなくなり、さみしくなる。  「でも、どうしても、身体だけでも良いから、僕の物でいて欲しいよ……」  大きなペニスが充てがわれ、ゆっくりと押し入ってくる。  「うっうううぅぅぅ」  「苦しいよね……痛いかも……ごめんね……」  「へ……へーき……」  ミシミシと言う感じで、今までに無い圧を感じる。志乃が入ってくるのだ。苦しいより、嬉しいの方が大きい。  「あぁ……あぁ……あぁ……」  「ん……もう少しでさきっぽ入るから……」  必死で息をして、力を抜こうとする。そして、ぐっと引き込む様にして急に太いものが中に収まった。  「あっあっ……はいった?」  「さきっぽは……」  「まだくるの……?」  ヒクヒクとゆれて、前からもダラダラと溢れる。苦しいのに、勝手に溢れてしまう、前がジンジンすると、後ろに力が入り、後ろに力が入れば前がジンジンする。まだ志乃は動いてもいないのに、僕は一人で喘いでいた。  「なか……ぐちゅぐちゅする……」  「うん……ヤバい……しばらく動けないかも」  「このままでも大丈夫……気持ちいい……」  抱きしめようと身動ぐ。  「あっちょっっ動かないで、ヤバいから……」  「あ、ごめん……でも気持ちよくて……」  「僕も気持ち良すぎて……」  なるべく動かない様に、肌を密着させて、唇の隙間からふうふうと、息をする。何分経ったのか、後ろが馴染んできた頃に、再びゆっくりと志乃の物が進んできた。  「奥は開発してないから、全部はまだ無理だけど……」  先程よりも更におなかがいっぱいになったところで、志乃はゆっくりと揺さぶってきた。  「あっあっしの……しのく……ん」  「好きですよ祥明さん……」  「あぅあ凄い音してる、ぐちゃぐちゃ音してる、どうしよう……どうしよう……気持ちいいしのくん気持ちいい、しのくんと繋がってる嬉しい嬉しい嬉しい大好き大好きしのくん大好き大好き大好き」  「ああもう……本当に酷い人だ……」  その後は言葉にになんてならなくなって、縋りつき、呻き、ただ律動に身を委ね、快楽を貪り、煩わしい何もかもが全部なくなっててしまったような、錯覚を覚えた。  僕は最低な人間だ。

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