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花嫁 4

村は遠い昔、飢饉や戦に疲弊した。 村人達はこのままだと村が絶滅することを恐れた。 だから。 神を創ることにした。 その頃、村には異形の子供がいた。 髪は赤く身体は大きく。 山に倒れていた旅人の女が行き倒れて死んでいて、その脚の間から生まれた子供だった。 その時代。 一人で旅する女などいない。 遊女を兼ねる呪い女位しか。 でも、明らかに高貴な服装をした、肌の白い美しい女だった。 不吉とは思ったが、村人はその子を育てることにした。 高貴かも知れないと思ったからだ。 赤い髪もその頃は気にならなかったからだ。 だが子供は大きくなるにつれて、異相が明らかになってきた。 夜に光る目は翠だった。 赤い髪。 何より大きな身体。 村人達は異形として恐れるようになった。 子供は人より、山の中の獣達と親しんだ。 いつしか山で暮らし、自分を異端視する村人達から離れてくらすようになっていた。 村は昔から神を造ってきた。 死んだモノを神にした。 この村の神は死者達だった。 死んだ者が霊となり、村を守ってくれると信じていたのだ。 墓に埋める前にその1部、髪なり、指なりを御堂の下にうめたのだ。 それに祈り神にした。 でもそんなモノではその時代は乗り切れないと村人達は思った。 もっと強い加護が必要だ。 そして、村には決してつかってはならない外法も伝わっていた。 飢饉。 山賊や落ち武者に殺される村人。 山からくる獣。 村人達は限界だと思って外法を使うことにした。 異形の男を贄に選んだのは、高貴であるかもしれないと思ったのと、人間離れしたその姿と、何より余所者だったからだ。 花嫁を娶れと、山に住む男につげた。 姿は見せないが聞いていることは分かっていた。 村に住み、村を守る役割を果たしてくれたなら、村の美しい娘を嫁にやる、と。 村から遠ざかっていたはずの男はそれを信じたのだ。 孤独だったからか。 祝言はあげられ、初夜も行われた。 久しぶりに現れた男は、村人達が驚くほど巨大になっていた。 花嫁は小さな悲鳴を上げた程だった。 男は花嫁を見つめて、式の間も一度も目をはなさなかった。 式が終わると同時に男は花嫁を抱き上げ、初夜の間に向かった。 男は花嫁を朝まで抱いて離さなかった。 花嫁が喘ぎ、泣く声を村人達は聞いていた。 いつまでもそれは続くようだった。 だけど、祝言の盃に仕込まれた毒は朝にはやっと効き、男は動けなくなった。 その男を生きたまま箱にいれ、御堂の下に埋めた。 男に抱かれたそのままの姿の花嫁も一緒に。 泣き叫ぶ花嫁と、動けなくなった男の呻く声は、何日も聞こえた。 そして。 そこに外法を施した。 「祟り神だよ。強い怨みを持つ者を神にした。怨み出てきた悪霊を拝み代償を捧げることで加護を得る」 父親だった、今は御堂の守り手である男が言った。 村は強い悪霊を神とすることで、加護を得ることにしたのだ。 村は約束を守った。 花嫁は届けられ続けた。 花嫁が死んだ日に生まれた子供を捧げると誓ったからだ。 子供はちゃんとその日に生まれる。 花嫁が10歳前後になると、結婚させた。 長くは神が待てないからだ。 神は花嫁無しでは危険だった。 神は花嫁を持つことで安定した。 たまに男が生まれることがあったが、神は大して性別を気にしていなかった。 男も女もなく、ひたすらただ1人として、孤独に生きていた異形にはさほど問題は無かったのだろう。 凄まじい孤独を抱えた男が死に神になり、花嫁だけを求め続ける。 「花嫁はいつまで続くの?」 聞いてみた。 いつまで犯され続けるのか。 「死ぬ間でだ」 そう言われた。 その言い方にひっかかった。 「花嫁はみんなどう死んだの?」 聞いた。 「最初の一人以外は・・・自殺だよ」 何度も聞いてやっと教えてくれた。 化け物に抱かれるだけの人生。 それでは壊れるのは分かっていたから納得した。 だが、壊れる前に。 逃げてやる、と決めた。

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