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花嫁 6

ソレが消えていた寝床から這い出した。 いつもいつ消えたのかは分からない。 完全に意識が飛ばされるまでされるからだ。 いつもなら気絶したように夕方近くまで寝ているが、今日はそういうわけにはいかなかった。 今日逃げなければ。 貫かれ、中を犯され、そこで精を放たれる。 それが自分を大きく変えてしまう、と分かっていた。 花嫁達は。 18までに死んでいる。 自死だと言う。 10歳から花嫁になり、おそらく、大人になり、本当に抱かれるようになって数年で死ぬ。 化け物に抱かれる人生が嫌になった、というのはあるかもしれない。 が、快楽は凄まじく、何も考えないならこれ以上気持ち良く楽しめるものも無いのだ。 全員が自死というのは無理がある。 快楽何もかも受け渡し、考えることを止める方が簡単なはずなのだ。 ソレは花嫁を本当に可愛がっている。 快楽を与えないとは思えない。 大人になるまで、受け入れられるようになるまで、じっくり待っているのはそのためだ。 だから、多分。 後ろを犯された時感じる快楽は今以上なのは間違いない。 だからこそ、ソレに狂って何も考えなくなる花嫁がいても良いはずなのに。 自死? わざわざ? 全員? なにかがおかしかった。 とにかく、逃げるなら今しかなかった。 性をそそがれ、汚された身体や寝具が綺麗になってるのは、神が居なくなったあと、世話をしてくれるモノ達がそうしてくれたからだろう。 いつもそうされてる。 昔、世話をしてくれるモノ達。家族だった、人たちが。 離れの部屋の中央に引いていた寝具をめくった。 毎夜抱かれていることが、単なるセックスではない、ともう知っている。 どこへ逃げてもソレはやって来て抱くだろう。 だが、ここで抱かれることには、この離れで抱かれることには意味はあった。 ここでソレに花嫁を抱かせること自体が、呪法なのだ。 色々調べた。 古文書も内容を教えて貰った。 花嫁が言うことには、花嫁が逃げること以外は逆らえない。 それも、呪法の一部だからだ。 床に手をやった。 軽く叩く。 音が変わる場所。 畳をめくりそこの板を外せば、地下に続く階段がある。 これを見つ出すのに数年かかった。 今御堂を司る人たちも知らないはずだ。 これはこの部屋のどこかにソレがあるだろうと、予想して探し続けていたからみつけられた。 外法の意味を知ってから、探し続けていたのだ。 降りていく。 当分、花嫁の世話がかりという名の看守はまだ来ないだろう。 綺麗に身体を清めて、夕方ちかくまでは部屋に近付かないだろう。 後から滴るのを感じる。 後ろがまだ濡れた性器のようになってる。 唾液を注ぎ込まれていたからだ。 舌でさんざん犯されていたからだ。 巨大な舌は小ぶりな人間の性器くらいはあって、それは幼い頃から後ろを貫いてきた。 あのデカイモノは入れてないだけで、とても処女とは言えないそこを造り上げてきたのだ。 縦割れて女性のソレのようにカタチを変えるまで。 身体の外は世話係に綺麗にされてても、そこにはまだ残ってた。 仕方ない。 花嫁の中に手を触れて良いのは、ソレだけだからだ。 世話係以外ならは花嫁に触れるだけで死ぬ。 世話係はおなじ血を引く、元々は母や父や姉だった者だから、触れることは許されているのだ。 ソレの体液は夜までには体内に吸収され、酷く犯された花嫁の身体を癒すのだと、体感している。 唾液でそうなるなら、精を受けたらどうなるのか。 滴る感触に喘いだ。 舌で貫かれる感覚がまだ残っていた。 ぐちょぐちょと熱く濡れて動くそれを入れられ、カクカク腰を動かしてしまう、あの感覚が。 最後にイカされてまだ数時間も経ってないのだ。 そうされたことを思い出しただけで、身体が震えて痙攣していた。 ああっ ああっ ペニスと乳首に手を伸ばし喘いでしまったが、それをやっとの事でやめた。 ダメだ。 快楽に逃げるな。 そう自分に言い聞かせた。 階段を降りた。 そこには広間があった。 木の柱で固められた、土間の部屋。 天井は部屋の床だ。 床下に、こんな大きな空間があるとはおそらくだれも知らない。 そして埃を被った仏像のようで仏像ではない像。 そして、木の蓋をされた穴がその前にあった。 仏像のような像は、鬼の姿をしていた。 仏像のように座って仏像のようなポーズをとっているのに、それは明らかに鬼だった。 これは外法の像なのだ。 懐から世話係から何とか隠してきたナイフをとりだす。 畳の下に隠していたのだ。 覚悟は決めていた。 迷わずナイフを仏像の目に突き刺した。 両目とも。 真っ赤な血が抉るように刺した場所から出たことには驚いた。 でも驚いている暇はなかった。 木の蓋を開けた。 そこには巨大な頭蓋骨があった。 角の生えた。 御堂の下に花嫁と共に埋められた贄の死体から頭だけを外し、その上で新しい花嫁と、鬼になったソレが交わること自体が村を守る呪法だったのだ。 最初から角が生えていたのか、鬼なってからなのかは分からない。 だがソレは鬼の頭蓋骨だった。 頭の大きさが2メートルは超える身体を想像させた。 いや、知ってる。 毎夜抱かれて、頭を抱えてその角までしゃぶっているのだから。 迷わずナイフで額を刺そうとした。 硬くてそれは中々難しかった。 木の蓋の上に墓標代わりに置かれていた大きめの石を使ってそれを砕いた。 鈍い音と共に砕けた。 これで。 少なくとも。 花嫁と鬼の繋がりは消えるはずだ。 この頭蓋骨の上で毎夜抱かれることが呪法だったのだから。 ならば。 一刻も早く逃げなければ。 砕いた頭蓋骨、傷付けた鬼の像をそのままに、慌てて上の部屋に戻った。 もう1枚畳を巡る。 そこに服を隠してあった。 あと札の束。 これはあちこち探している間に見つけたものだった。 古い古い札。 100万はある。 人骨と一緒に埋められていたから、まあ、花嫁に関するなにかで死んだ誰かのものなのだろう。 時間をかけて村で干していた洗濯モノから少しづつ集めた服を着る。 花嫁だと人目で分かる、白い着物しか許されず、下着さえ許されなかったのだ。 逃げ出さないように。 さあ、逃げる。 逃げてみせる。 世話係は数時間で気付き、追ってくるだろう。 町に逃げたと思うはずだ。 だが町も村と繋がっている だから逆に。 山のさらに奥に行く。 道の無い、獣の危険のある方へ。 そちらを選ぶとは思わないはずだ。 そこから、遠い町を目指す。 その町ならば村と繋がってはいない。 とりあえず、そこまで逃げる。 決めていた。 どうしてもここから。 逃げたかった。 2つに砕いてしまった頭蓋骨に、離れ際にキスをした。 「お前も自由になるといい」 これだけでは村とソレの繋がりを断てるとは思わなかったけれど。

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